燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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十三

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 内心笑いながらも、そんなリィウスの無防備さ、幼さが、壮絶な魅力となってディオメデスを煽り、惹きつけていることにディオメデス自身気づかない。
「気持ちよくしてやるから、いい子にしていろ」 
 舌先でかるく苛めてみる。
「はぁ!」
 リィウスが切なげに身をよじり、のけぞる。
 異常にたかぶった男たちの熱気で室内は汗ばむほどに暑く感じる。
 しばしの舌戯の果てに、リィウスはディオメデスの口に情を吸いとられた。
「ああ……! あああ……」
 紅を塗られた口唇から、悲しい敗北の歌のような喘ぎが漏れる。
 トロイ陥落の際、サビニの略奪の折、やはり獣と化した男たちにさらわれ強姦された女たちはこんな声を漏らしたのだろうか、と柄にもなくディオメデスは古代の歴史絵巻を脳裏に思いえがいていた。 
 夫を殺されたアンドロマケは、父を殺されたカッサンドラは、拉致され、凌辱され、敵地でその後どんな人生を生きたのだったか……。また柄にもなくそんなことを思っている自分は少し妙だな、とディオメデスは思う。
 そんなふうにやけに詩的な想いに走らされるのは、腕のなかの虜囚があまりに美しく、たおやかで、無残なすがたをさらしても高貴さを失くさないからだろうか。
 二度も強制的に快をあたえられても、リィウスは清らかさと気高さをくずさない。
 今までにも強姦同然に関係を強いた女や少年はいたが、皆最後は強引にあたえた快楽に墜ちて、淫らに浅ましい姿をディオメデスの前にさらした。
 だが、リィウスはそうならない。
 羞恥と悔しさに頬を染め、瞼を閉じてせつなげに震えるすがたは痛々しく、いじらしげでさえある。浅ましい、いやらしい、などと蔑む気持ちがまるで出てこない。
(困ったな……)
 ディオメデスにとって、これは予期せぬ展開だった。
 反目していた旧知の学友を、侮辱し、痛めつけ、むりやりに淫獄に堕とし、のたうちまわらせ、とことん傷つけてやりたくてしたことだった。
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