燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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馬上の淫花 一

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(悪趣味な連中だな)
 ディオメデスは内心、呆れながらメロペの連れてきた少年を見た。
 少年……、リィウスの義弟のナルキッソスは、悪びれもせず艶然と微笑んでいる。リィウスとは血のつながりはないというが、それでも、こちらもなかなかの美少年で、最初はタルペイアが彼に目を付けたというのも頷ける。やや、肌が荒れて見えるのは、荒淫が過ぎるせいか。だが、それをさしひいてもかなりの美少年だ。
(だが、俺は好かないな)
 ナルキッソスのことは前から知っていた。
 リィウスの義弟ということで、多少興味はあったのだ。だが、美しくはあってもリィウスと似たところはほとんどない。容貌はすぐれていても、その気性にも精神にも、すこしもディオメデスの気を引くものはなかった。むしろ、メロペを通してかすかにうかがい知るナルキッソスの性質からは、これがリィウスの義弟かと思うと、しらけたような、騙されたような不快感すらおぼえた。
 それが、今、こうして兄が身を売る娼館へこっそり足をはこび、影からリィウスの淫らな秘めた姿を覗き見しようというのだから、さらに不快感はつのる。
 自分のことを棚にあげて、ディオメデスは言いようのない嫌悪感を、目の前の、このどこか病んだ美少年に覚えた。
「お客様、大きな声を出さないでくださいね」
 アスパシアが、小声で注意する。
 彼女のセピアの瞳が、今日はかすかな火をふくんで見えるのは、おそらくナルキッソスやメロペ、そしてディオメデスのしていることに、反発を感じているからだろう。
 娼婦に身を堕としても、アスパシアにはどこかまっすぐなところがあり、リィウスのあられもない恥ずかしい姿を覗き見してよろこんでいる男たちに怒りを覚えているようだ。勿論、彼女も金で買われる身の上であるから、口に出しては言わないが、その目には怒りがちらついている。
 奇妙な話だが、常連で上客の自分に対してさえ、ほのかな反骨を見せるアスパシアの潔癖さが、ディオメデスには好もしい。
(だから、俺はアスパシアを選ぶのだろうな)
 自分でも妙なものだと思うが、なぜかディオメデスは、自分にはない正義感や道徳心を持った相手に魅かれる。
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