燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 いらだつタルペイアを、ウリュクセスは鷹揚な態度でなだめた。
「まぁ、いいじゃないか、ドミナ。まだ慣れていないのだよ。そんな初々しい風情も悪くないね。可愛いじゃないか。私が初めての客になってやろうか」
「あら、リィウスにはもう客がついているのよ」
 そんなことを言ったサラミスを、タルペイアが睨みつけた。
「サラミス、今日はおまえが〝子馬〟に乗ってみる?」
 サラミスが首をすくめる。前にも酷い仕置きを受けたのだ。そのときのことをまだ覚えていたようだ。だが、怯えたように首をすくめはしても、その頬はほんのり赤らんでいる。仕置きのもたらした苦痛と、それに混ざる被虐の悦楽を思い出したようだ。
 この娼婦は生来、かなり淫蕩な性質たちのようだ。
 どれほど厳しく戒められても、惚れた男には軽々と身をあずけてしまう。客の従者や、出入りの商人を誘ったこともある。客として来た男でも、気が合うと、金をとらずに必要以上の奉仕をする。正直で可愛い、と贔屓にしてくれる客もいるが、なかにはサラミスの無邪気さにつけこんで、彼女の身体をいいように利用しようとする男も多い。
(ここに来れただけ、あんたは幸せよ。あんたみたいな馬鹿な女は場末の鳩小屋で、小汚い下層の男どもにいいように弄ばれて終わっていたのよ)
 などと、よくタルペイアは怒ったものだ。
 鳩小屋とは、庶民的な売春宿のことで高級娼館の柘榴荘とはまるでちがう。だが、たしかにそういった店の方がサラミスには似合っているようで、聞いた誰も眉をしかめたことはなかった。
 サラミスのような女は、どうあっても娼婦にならざるを得なかったろう。まれにそんな女がいる。いや、娼婦という、性行為と引き換えに金品を得るという職種につけただけまだ彼女は幸せなのだ。
 仮に、どこかの下流の男の妻か、そこそこ金持ちの妾におさまったところで、しょっちゅう他の男に色目を使い、脚を開いていたろう。なんの見返りなしで。金をもらえる娼婦という職業につき、柘榴荘に住めるだけサラミスは恵まれていたのだ。
「この娘だって素性はそう悪くないし……、ええうちの子たちは、皆良家の出なんですよ。ご覧のとおりなかなかの器量なのに、どうして、こうも頭もお尻も軽いのか。本当に悩みの種ですわ」
 売りものの野菜の出来が悪いのを嘆く商家のおかみさんのような口調で、タルペイアは、目の前にいるサラミスをまるでいないもののように扱って、嘆きを示す。
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