燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「まぁ、いいじゃないか。サラミスのような女は貴重だよ。こういう女が世の男を幸せにしてくれるのだ。例え、商売とはいえ、本気で惚れてくれるのなら、男にとってはありがたい話じゃないか」
「いえ、惚れるだけならいいんですけれど、この娘は、好きになった相手には金をもらうことを忘れて夢中になってしまうんですの」
 サラミスはふくれっ面になった。それの、どこが悪いのよ、という顔をしている。天真爛漫な彼女は客や女主の前でも、自分をいつわったり取りつくろったりはしない。
「それは……ますますありがたい娘さんだな」
 ウリュクセスは苦笑したが、その青白い目には、どこか胡乱うろんなものが満ちている。
「私は自分に正直な女は好きだよ」
「あら、道理で。聞いてますわ。最近、新しい恋人ができたとか。あまり遊びに来てくれなくなったのは、そのせいですのね」
 タルペイアは意味深な流し目をおくる。
「おいおい」
 ウリュクセスが、それが癖なのかまた苦笑した。南国の潮風に嬲られた顔は日に焼けており、苦みばしった顔は、老いてはいてもなかなか魅力的で、若い頃ははさぞかし美男だったのだろうと思わせられる。
「そんなことより、今夜はどんなお遊びで私を楽しませてくれるのかな?」
「今夜はリィウスの、乗馬姿を見ていただこうと思っておりますのよ」
 タルペイアの言葉にリィウスは背筋に冷たいものが走るのを感じた。
 ほとんど直観的に、タルペイアのいう〝乗馬姿〟というものが、普通に馬に乗ることでないことを悟ったのだ。
 足がかってに動き、後ずさる。逃げ場などないのに、つい目は逃れる場所をさがしてしまう。
「ほう。子馬に乗ってくれるのかな、この上品でお綺麗な人が?」
 ウリュクセスが、視線をリィウスにぶつけてきた。舐めまわすような、ねっとりとした視線の攻めに、リィウスは頬が熱くなるのを感じる。
「わ、私は……」
 抗議できる立場でないことは承知しているはずなのに、なんとかして逃れられないかと、震える舌がどうにか言葉をつむごうとする。
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