燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「いやいや、本当にわからのんだよ。なぜ娼館にこんな馬の彫刻品があるのかな? しかも、背中のその道具はなんに使うのかね?」
「あら、いやだ。もう、しょうがない」
 そんな会話をする二人から、どろどろと濁った風が吹いてきそうだ。リィウスは嫌悪感に吐きたくなった。
 やはりウリュクセスという男は残忍なものを秘めた恐ろしい男だということがわかってきた。そしてその恐ろしい男と、同じぐらい残酷な女を前にして、今やリィウスは身に迫ってくる恐怖と必死にたたかっていた。
 泣きだしてはいけない。逃げ出すこともできない。それはわかっているが、では、どうすればいいのだ。
「本当にわからんのだよ。教えてくれないかね?」
「ほほほほ。では、使い方をお目にかけましょう」
 まさか……という凄まじい恐怖がリィウスを押しつぶす。
「さ、リィウス、今宵のお客様がご所望よ。いらっしゃい」
「わ、私には……」
 リィウスは咄嗟に衣の袖で女のように口をおおっていた。
「駄目よ、お客様のお望みは叶えてさしあげるのが、私たち柘榴荘ではたらく者たちの勤めよ。さ、」
 言いながら、タルペイアは馬の背にある黒い突起物を、ほそい指で撫であげた。
 男根をかたどった石や木の置物は、この時代めずらしくはない。男性器は命の源、生命力そのものと見なされ、ごく一般家庭でも、家の守り神をまつるほこらに飾られてあったりする。男根の模造品は、かならずしも下卑た意味にとられるものではない。
 だが、この場合は、まちがいなく猥褻な目的のためにその器物は存在感を放っていた。
 タルペイアは意味ありげな仕草でそれを片手の指で包みこむようにする。
 黒水晶モリオンを研磨して作りあげられた、なかなか見事な工芸品である。青黒く艶光つやびかりして、まるで命があるようで、今にもタルペイアの愛撫に大きくなりそうだ。
 タルペイアが、もう片方の手を伸ばし、先端をつまむような仕草をした瞬間、リィウスはおぞましさに悲鳴をあげそうになった。見ていられない。
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