燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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十一

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「綺麗な色だ。早咲きの薔薇の花びらの色だ」
 呟くような声が聞こえたかと思うと、右胸の先端をふたたび、やんわりと指で摘まれて、リィウスは叫んでしまう。
「ううっ!」
「実に旨そうだよ。食べてしまいたね。くっ、くっ、くっ」
「あっ! よ、よせっ!」
 男の舌で舐めあげられ、リィウスはおぞましさまに身震いせずにいられない。
「ふふふふふ」
 男は面白がって、舌で舐めあげ、唇で吸いあげ、音をたてて幾度となく接吻する。羞恥もなく平然とそういうことをやってのけるところからして、彼の神経の太さがうかがいしれる。
「も、もう、よせ! やめろ!」
 悲鳴じみた懇願を完全に無視して、相手は、今度は左胸におなじ愛撫をほどこし、リィウスをいたたまれなくさせる。
 男でありながら男によって胸を嬲られるのは、下半身を嬲られるより強烈な屈辱感をリィウスにもたらした。
「ああっ! ああっ! も、もぉ、もぉ、よせ……」
 相手を突き飛ばしてやりたくとも、腕は宦官たちによって抑えこまれており、リィウスはなす術なく、散々、ねちねちとウリュクセスの異常なまでに執拗な愛撫に耐えるしかなった。
「うう! ううう! ああっ!」

 どれぐらい時間がたったか……。それは実際にはわずかの時だったのだが、リィウスには果てしなく長い時間に感じられた。
 やがて、最後にきつく胸をつかまれた刹那、リィウスの身体は馬上でひきつった。
「あっ、ああっ、ああっ、あああああ!」
 きわめた瞬間にあっても、羞恥を忘れることはできない。むしろ羞恥の情感が、最高の媚薬となってリィウスを煽り、はじけさせた。
 獣の目をした男と女と宦官たちの環視のなかで、リィウスは絶望的な快楽をあじわっていた。 
 一瞬、ほんの一瞬だが、リィウスの魂はエリュシオンへと飛翔した。
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