燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 思ってみてから、今更ながら、あらためて自覚した。すると、胸を針束で突かれたような痛みが襲う。
 ディオメデスは、内心驚いた。
 他者の、自分に向ける感情をあれこれ推測して、落ち込んでいる自分が信じられない。
 人にどう思われようが気にするような柄でなかったはずだ、自分という人間は。
 リィウスに対しては、特にそうだった。
(こいつにどう思われようが、どうでもいいと思っていたはずなんだがな……)
 ディオメデスは、勿論、自分がローマの求める模範的青年でないことは重々認識している。享楽を味わい、放蕩にふけって青春を浪費している生き方を、リィウスのように周囲の一部の人間からは批判されていることも知っているし、知っているからこそ、かえって開きなおって己のしたいようにして生きて来た。
 父は仕事や趣味で忙しくディオメデスのすることには口出ししなかったし、もともとあまり子どもに興味がなかったのだ。ディオメデスには母の違うきょうだいが何人かいるが、その外腹の子どもたちのこともさして気にかけていないようだ。生みの母は早くに亡くなったので、ディオメデスが何をしようが意見する家族はいない。また、この時代の風潮では、貴族階級の男性の多少の放埓ほうらつは大目に見られるものだった。
 その風潮に甘やかされ、都有数の富豪の嫡男という立場もあって、あらゆる贅沢も遊興も認められゆるされ、さらに頭脳も体力も人並み以上にめぐまれ、驕りきり、やりたい放題、したい放題に生きてきた。羨望や憧憬の目を向けてくる者も多いが、当代随一の驕慢児きょうまんじと、白い目で睨み、指さす者もいることは、充分知っている。
 そして、そんな自分に誰より冷たい目を向けていたのがリィウスだった。
 蔑まれ、嫌われ、ディオメデスもまたリィウスの反感を感じ取って、リィウスを嫌った。互いに憎みあいながら青春の日々を、青い火花を散らしながら過ごしてきた。
 だが、交じり合うことはけっしてなくとも、日々すれ違うたびに、否応なしに互いを視界に意識してきたことも事実だ。
 お互いうとましく、憎らしく、嫌いあっていた。そして、お互いひどく相手を意識していたのだ。
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