燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 柘榴荘の娼婦たちは、皆良家の令嬢か令夫人だったという触れ込みだが、娼婦として生きているうちに、品性が下がってしまったのかもしれない。もしくは、彼女は、下層階級の出ではないかとリィウスは勘ぐった。
 客の相手をするためにタルペイアが多少は礼儀を仕込んだが、生まれもった性質はそう簡単に変えられるものではない。
「もう断れないわよ。ウリュクセスの別荘で、忘れられない経験をすることになるわよ」
 半ば脅すように、半ば心配するようにサラミスは告げる。
 リィウスは先日の恐怖の体験を思いだし内心身震いしたが、一方で、もはや墜ちるところまで墜ちているのだ、という自虐のあきらめの想いもわく。
 そして、やはりこのまま墜ちつづける暗黒の底なし沼へ、これ以上ディオメデスを巻き込むことがなくて良かったのだ、という安堵の想いもある。
 そう。リィウスは自分を犯し、おとしめたディオメデスの将来のことを案じていたのだ。そのことを自分で自覚するには時間がかかった。
 ディオメデスには恨みもあるが、彼の最近の自分にたいする惑溺ぶりは、リィウス自身ですら危ぶむところがあった。
(このまま、柘榴荘に来ていれば、いつか必ず破滅したはずだ)
 自分はもうどうしょうもない。だが、ディオメデスには未来がある。
(今からでも本道にもどり、良きローマ人として、都政をささえるひとかどの人間になってくれれば……。それで、いい……)
 リィウスはそんなふうにディオメデスの行く末を案じ、安泰を願っていた。そして、もうひとり、ナルキッソスのことも勿論忘れていない。
 今のリィウスには、ディオメデスとナルキッソスの未来だけが生きている理由だった。彼らの行く末に光あることだけが、自分の人生に意義あることに思える。
(ナルキッソスのことはともかく、ディオメデスのことをそんなふうに思うなど、私はどうかしている……)
 ディオメデスは欲望のままに自分を凌辱し、ただ肉体に執着しているだけだと、幾度となく己自身に言い聞かせはしたものの、連日連夜、はげしく求められたことで、あるかなしかの情が引き出されてしまったのかもしれない。
(だが、もう終わりだ。これで、終わったのだ)
 胸につきあげてくる甘く切ない痛みを、どうにかリィウスは振り切った。
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