燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

文字の大きさ
175 / 360

ローマの闇夜 一

しおりを挟む


「あーあ、馬鹿ねぇ、あんたにとって唯一最高のお客だったのに」
 いつの間にか、そこにはサラミスが立っていた。足は裸足で、緋色の薄衣をまとっている。透けて見える身体は、全身が桃色の霞につつまれているようだ。 
 リィウスは目が潤んでいるのを知られたくなく、そっぽを向いた。
「そんなに、お馬乗りしているのを見られたのが恥ずかしいの?」
 サラミスの菫色の目は、ふしぎなものでも見るようだ。この女は恥ずかしくないのだろうか。リィウスは自問して、納得した。
 羞恥の感情など、とうに捨てている真性の娼婦なのだ、サラミスは。
 だが、タルペイアからは、いくら娼婦でも羞恥心がまるでないと、客によっては面白くないという者もいるので、適度に恥ずかしがるふりをしろと教えられたという。
「恥ずかしがって、嫌がるふりをすると、客はいっそう燃えるんですって」
 子どものように面白そうに笑う。彼女の無邪気さがリィウスは羨ましい。彼女のように、なにも考えず、肉の人形と化し、男を相手にして悦びを得、金を得て生きていければいっそ楽かもしれない。
「今度、あたしとあんたで、ウリュクセスの宴に呼ばれることになるかもね」
 ウリュクセスの名を聞いてリィウスは怖気立った。
「嫌? 嫌なら、ディオメデスにお願いしてもう一度客になってもらえば?」
 サラミスはからかうように言う。その口調にやや棘を感じるのは気のせいか。
 リィウスの思っていることが伝わったのか、サラミスは唇をとがらせた。本当に子どものようにあどけない。
「ディオメデスをふるなんて、勿体ないことするからよ」
「彼は……人気があるんだな」
 そのことはリィウスも気づいていた。柘榴荘の女たちに、どういうわけかディオメデスは好かれているのだ。
「だって、格好がいいし、お金持ちだし、気前いいし、言うことなしじゃない。それなのに、あんたったら、彼を袖にしてしまうんだから。この先、どうするのさ?」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

少年探偵は恥部を徹底的に調べあげられる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

身体検査その後

RIKUTO
BL
「身体検査」のその後、結果が公開された。彼はどう感じたのか?

処理中です...