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ローマの闇夜 一
しおりを挟む「あーあ、馬鹿ねぇ、あんたにとって唯一最高のお客だったのに」
いつの間にか、そこにはサラミスが立っていた。足は裸足で、緋色の薄衣をまとっている。透けて見える身体は、全身が桃色の霞につつまれているようだ。
リィウスは目が潤んでいるのを知られたくなく、そっぽを向いた。
「そんなに、お馬乗りしているのを見られたのが恥ずかしいの?」
サラミスの菫色の目は、ふしぎなものでも見るようだ。この女は恥ずかしくないのだろうか。リィウスは自問して、納得した。
羞恥の感情など、とうに捨てている真性の娼婦なのだ、サラミスは。
だが、タルペイアからは、いくら娼婦でも羞恥心がまるでないと、客によっては面白くないという者もいるので、適度に恥ずかしがるふりをしろと教えられたという。
「恥ずかしがって、嫌がるふりをすると、客はいっそう燃えるんですって」
子どものように面白そうに笑う。彼女の無邪気さがリィウスは羨ましい。彼女のように、なにも考えず、肉の人形と化し、男を相手にして悦びを得、金を得て生きていければいっそ楽かもしれない。
「今度、あたしとあんたで、ウリュクセスの宴に呼ばれることになるかもね」
ウリュクセスの名を聞いてリィウスは怖気立った。
「嫌? 嫌なら、ディオメデスにお願いしてもう一度客になってもらえば?」
サラミスはからかうように言う。その口調にやや棘を感じるのは気のせいか。
リィウスの思っていることが伝わったのか、サラミスは唇をとがらせた。本当に子どものようにあどけない。
「ディオメデスをふるなんて、勿体ないことするからよ」
「彼は……人気があるんだな」
そのことはリィウスも気づいていた。柘榴荘の女たちに、どういうわけかディオメデスは好かれているのだ。
「だって、格好がいいし、お金持ちだし、気前いいし、言うことなしじゃない。それなのに、あんたったら、彼を袖にしてしまうんだから。この先、どうするのさ?」
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