燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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十一

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「……」
「出て行ってくれ!」
「リィウス、」
 何か言おうとしてか口を開いたが、次の言葉は聞こえない。先に口をひらいたのはリィウスだった。
「出て行ってくれ! 頼むから! そして二度と来ないでくれ!」
 驚愕に口を開けて固まっているディオメデスに、さらにリィウスは言いつのった。
「早く! 早く出て行ってくれ!」
 こうしてディオメデスと向かい合っていることが耐えられないのだ。
「リィウス……」
「頼むから! 後生だから出て行ってくれ! そして、もう来ないでくれ!」
 自分のことは忘れてほしい。それが真実、リィウスの願いだった。
 買われる方が買う方に言うべき言葉ではないが、ディオメデスは言い返してこない。
 その顔にあるのは困惑だけだ。碧の双眼は生気をうしなったようで、迷子の子どものように頼りなげな様子だ。こんな顔をするディオメデスをアウルスが見れば、目を疑っただろう。
 だが、すぐに失った自分をとりもどしたようにディオメデスが怒りをあらわにした。
「よくも、そんなことを言えるな! 俺は客だぞ! どれだけ金を払ったと思っているんだ!」
「なんとでも言えばいい! だが、今日で最後にしてくれ。金輪際こんりんざい、柘榴荘には来ないでくれ!」
「お、おまえは……!」
 わなわなと震えながら、激しい怒りを飲み込むように息を吐き、ディオメデスはあたりに散らばっていた衣類をあつめた。
「ああ! わかった! 二度とここへは来ない! おまえは、せいぜいあのウリュクセスの好色爺に可愛がってもらうがいい。俺とやるより、石の馬相手によがっている方がいいんだろうな! 随分、良さそうだったしな!」 
 下町のごろつきのような下品な口調で下劣な罵詈を吐き出すディオメデスを、リィウスはどうにかしてやり過ごした。 
「早く行ってくれ!」
「ああ! もう二度とここへは来ないからな!」
 痴話喧嘩のような言葉を最後に吐き捨て、ディオメデスは背を向けた。
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