燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 言うまいとは思ったが、口が自然に開いていた。
 言ったとたん、あのときのリィウスの泣き顔が目にうかび、アンキセウスは胸に短刀を突きさされた気分になる。
 月を思わせるような真珠色の肌を紅珊瑚べにさんごの色に燃やし、若いしなやかな肉体を悶えさせ、見物人たちのまえで視姦の激烈ないたみに喘ぎぬいたリィウスの悲惨かつ、壮絶な美しさ。
(あんな目に合わされて、あれほど嬲られ侮辱されても、リィウス様のお美しさはすこしも損なわれなかった……)
 アンキセウスまで身体の芯がくずれるような疼きを覚えて、我知らず頬を熱くしていた。
 そんなアンキセウスをどう思ったか、
「ふん! なにが辛いものか。あの人は悦んでいたじゃないかっ!」
「それは……無理やりでもそうされれば……」
「悦んでいたんだよ! あそこで、……あの瞬間、主役はあの人さ。見ていた奴らは、みな脇役だ」
 今ひとつ、ナルキッソスの言うことはアンキセウスにはわからない。だが、ナルキッソスがひどくリィウスを妬み、嫉妬していることは察せられた。
 もともとナルキッソスは本嫡のリィウスを羨み、妬んでいたのだ。元来、妬みぶかい少年だったのだ。生まれが日影の存在であることも、彼のその性格に悪い影響をあたえたようだ。
 聞いた話だが、彼の母は、ナルキッソスの父親の正妻ではなかった。ナルキッソスは愛人の子として生まれたのだ。出生や出自にかんしての劣等感というのは、なかなか消えないものだ。その点は、奴隷の子として生まれ育ったアンキセウスには解らないでもない。
 だからこそ、ナルキッソスの本性を知っても、憎めず、むしろ彼に魅かれてしまったのだ。最初は。
 かがやく陽光につつまれて育ったリィウスよりも、日影に並んで咲いた者同士、奇妙な連帯感もあった。
 だが、家の没落とともに、苦労を背負い、将来をあきらめて、柘榴荘で凌辱を受けている今のリィウスには、以前にもまして敬意と慕情、同情をおぼえている。かなうことなら、救い出してやりたい。
(無理だがな……)
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