燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「でも、その義父も、私が十歳になったとき、私の母に殺されたけれどね」
 三人とも沈黙してしまった。宵の風が皆の髪や頬をなぶっていく。
「で、母は夫殺しの罪で処刑されて、兄貴たちは厄介者の私を売春宿に売ったの」 
 またもサラミスは不吉な歌でも歌うように告げる。菫色の瞳は無邪気にさえ見えた。
「そこで働いていた私を、タルペイアが買い上げてくれたのよ」
 話を向けられたタルペイアが説明した。
「たまに下級の売春宿でも貴族階級から流れてきた上玉がかくれていることがあるからね。常にいい娼婦がいないか、情報をあつめているのよ」
 そして噂にたがわなかった場合は、店や当人と交渉して柘榴荘に引き抜くのだそうだ。
「でも、まさかそんな過去があったなんて、今日初めて知ったわね。売春宿の主は何も言わなかったけれど」
 タルペイアは苦く笑った。
「……あんたの義父って、なにしてた人?」
 ベレニケの問いにこたえたサラミスの言葉は、三人を呆然とさせた。それは、かつて国家の支柱と言われた、さる高名な貴族の名だったのだ。
「本当なの?」
 目を丸くして問うベレニケに、サラミスはあっさりと答える。
「本当よ。でも、まぁ、信じられないなら信じなくていいわよ。ただね、兄貴たちに言わせると、私の母は義父の弟とも関係を持っていたから、私はその、つまり義理の叔父にあたる男の娘だというよ。でも、たまにその叔父も私を抱きにきて、私の父親はまぎれもなく兄だっていうの。だから、自分とこうしても問題はないんだって」
 リィウスはなんとも嫌な気持ちになった。
 兄弟で一人の女を共有し、生まれた娘をまた兄弟二人でもてあそび、互いに父親は相手だという。どちらの娘にしろ、サラミスは近親相姦をしていた、いや、されていたということになる。淫蕩で野蛮な時代のこととはいえ、さすがにかなり過激な話に、リィウスは腐った食物を口にしたようなおぞましさを覚えた。
「子どもが出来なくて良かったわね」
 ベレニケが気の抜けたような声で言うと、サラミスはあっけらかんと笑った。
「出来たことあったわよ、一回、いえ、二回ね」
 リィウスは俯いてしまった。
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