189 / 360
六
しおりを挟む
「リキィンナは抜け目がないから。私だって、そうすれば良かったわ」
ベレニケの不満そうな言葉にタルペイアは眉を吊りあげた。
「なに言っているのよ、娼婦は選ぶことなど出来ないのよ。いくら、そこそこ売れているからといって、あんたも柘榴荘の商品であることにかわりないのよ、ベレニケ」
タルペイアはそう言ってベレニケを睨みつけ、つぎに斜め向かいに座っているサラミスに視線を向けた。
「サラミス、あんたもよ。お客の命令には絶対に逆らうんじゃないよ、と言っても、まぁ、あんたは大丈夫でしょうね」
「まあね。ふふふふ、私はお客の頼みをことわったことなんてないもの」
「頭が下がるわね」
ベレニケの声は棘をふくんでいた。
「本当に、あんたは娼婦になるために生まれてきたような女ね」
タルペイアが複雑そうな顔で呟く。どこかしら、不可解なものを感じているようだ。
「娼館の……、柘榴荘の主である私でもときどき不思議に思うことがあるわ。どうして……あんたは平気で、楽しんでなんでもできるのかしらって」
「……慣れているもの。私、物心ついたころから義父に、されていたもの」
やっと暮れなずんでいく空を見上げながら、サラミスが歌うように言う。
「義父に?」
リィウスは眉をひそめていた。
「ええ。義父……、ということになっているけれど、母が言うには私の実の父だっていうの。母はもともと義父の屋敷で働いていた自由民の召使だったのよ。気に入られて小部屋をもらえたの」
主人が召使に手をつけて愛人としたのだろう。ありふれた話だ。私室を与えられる待遇をされただけ幸せな方だ。
「でも、私は五歳になったかならないかの頃に、その男の〝道具〟を握らされていたわ。それが私の子ども時代の最初の記憶よ」
特に不幸という話でもない。この時代には。
「それから義理だか、腹違いの二人の兄貴たちの相手もしたわ。毎晩、毎晩、かわるがわる可愛がられたもの。ときには兄貴たちと義父がいっしょに私の寝室に来たことだってあるわ」
それも珍しい話ではない。皇族だとて不道徳な楽しみにふけり、近親相姦を噂されるような関係を持つ者もいた。
ベレニケの不満そうな言葉にタルペイアは眉を吊りあげた。
「なに言っているのよ、娼婦は選ぶことなど出来ないのよ。いくら、そこそこ売れているからといって、あんたも柘榴荘の商品であることにかわりないのよ、ベレニケ」
タルペイアはそう言ってベレニケを睨みつけ、つぎに斜め向かいに座っているサラミスに視線を向けた。
「サラミス、あんたもよ。お客の命令には絶対に逆らうんじゃないよ、と言っても、まぁ、あんたは大丈夫でしょうね」
「まあね。ふふふふ、私はお客の頼みをことわったことなんてないもの」
「頭が下がるわね」
ベレニケの声は棘をふくんでいた。
「本当に、あんたは娼婦になるために生まれてきたような女ね」
タルペイアが複雑そうな顔で呟く。どこかしら、不可解なものを感じているようだ。
「娼館の……、柘榴荘の主である私でもときどき不思議に思うことがあるわ。どうして……あんたは平気で、楽しんでなんでもできるのかしらって」
「……慣れているもの。私、物心ついたころから義父に、されていたもの」
やっと暮れなずんでいく空を見上げながら、サラミスが歌うように言う。
「義父に?」
リィウスは眉をひそめていた。
「ええ。義父……、ということになっているけれど、母が言うには私の実の父だっていうの。母はもともと義父の屋敷で働いていた自由民の召使だったのよ。気に入られて小部屋をもらえたの」
主人が召使に手をつけて愛人としたのだろう。ありふれた話だ。私室を与えられる待遇をされただけ幸せな方だ。
「でも、私は五歳になったかならないかの頃に、その男の〝道具〟を握らされていたわ。それが私の子ども時代の最初の記憶よ」
特に不幸という話でもない。この時代には。
「それから義理だか、腹違いの二人の兄貴たちの相手もしたわ。毎晩、毎晩、かわるがわる可愛がられたもの。ときには兄貴たちと義父がいっしょに私の寝室に来たことだってあるわ」
それも珍しい話ではない。皇族だとて不道徳な楽しみにふけり、近親相姦を噂されるような関係を持つ者もいた。
0
あなたにおすすめの小説
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる