燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「リキィンナは抜け目がないから。私だって、そうすれば良かったわ」
 ベレニケの不満そうな言葉にタルペイアは眉を吊りあげた。
「なに言っているのよ、娼婦は選ぶことなど出来ないのよ。いくら、そこそこ売れているからといって、あんたも柘榴荘の商品であることにかわりないのよ、ベレニケ」
 タルペイアはそう言ってベレニケを睨みつけ、つぎに斜め向かいに座っているサラミスに視線を向けた。
「サラミス、あんたもよ。お客の命令には絶対に逆らうんじゃないよ、と言っても、まぁ、あんたは大丈夫でしょうね」
「まあね。ふふふふ、私はお客の頼みをことわったことなんてないもの」
「頭が下がるわね」
 ベレニケの声は棘をふくんでいた。
「本当に、あんたは娼婦になるために生まれてきたような女ね」
 タルペイアが複雑そうな顔で呟く。どこかしら、不可解なものを感じているようだ。
「娼館の……、柘榴荘の主である私でもときどき不思議に思うことがあるわ。どうして……あんたは平気で、楽しんでなんでもできるのかしらって」
「……慣れているもの。私、物心ついたころから義父に、されていたもの」
 やっと暮れなずんでいく空を見上げながら、サラミスが歌うように言う。
「義父に?」
 リィウスは眉をひそめていた。
「ええ。義父……、ということになっているけれど、母が言うには私の実の父だっていうの。母はもともと義父の屋敷で働いていた自由民の召使だったのよ。気に入られて小部屋をもらえたの」
 主人が召使に手をつけて愛人としたのだろう。ありふれた話だ。私室を与えられる待遇をされただけ幸せな方だ。
「でも、私は五歳になったかならないかの頃に、その男の〝道具〟を握らされていたわ。それが私の子ども時代の最初の記憶よ」
 特に不幸という話でもない。この時代には。
「それから義理だか、腹違いの二人の兄貴たちの相手もしたわ。毎晩、毎晩、かわるがわる可愛がられたもの。ときには兄貴たちと義父がいっしょに私の寝室に来たことだってあるわ」
 それも珍しい話ではない。皇族だとて不道徳な楽しみにふけり、近親相姦を噂されるような関係を持つ者もいた。
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