燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 しなやかな身体は、不様な姿勢を取らせられても、美しく見える。リィウスの隣の客が「ほう」と感嘆まじりの声をあげる。
 彼が感心するのも無理はない。
 たいていの女戦士は男並みに大きな身体で、鍛え過ぎて武骨に見える者がおおく、器量もあまり良い者はいない。剣闘士には剣奴けんどという別名があり、金で雇われ、金のために命がけで戦う不安定な立場であり、結局は奴隷でしかない。同じ奴隷女なら、器量が良ければ娼婦や妾になるのが相場で、剣闘士になる女に美人というのが珍しいのだ。だが、このアキリアはかなり上等な美人の類に入る。
 しかも、剝きだしにされた身体も素晴らしく、ふくよかな胸に、ひきしまった腰、鍛えられて張りつめた臀部や脚と、この時代の女にはたぐいまれ美質を持っていた。しなやかな身体の女はいても、しなやかなうえに鍛えぬいた肉体を持つ女というのは、娼館にも後宮にも皆無だろう。ここでしか見れない美である。
 観客たちも欲望にたぎる目を向けている。女の客ですら頬を上気させて好奇心いっぱいの視線を遠慮なく中央舞台のアキリアの姿態に放っている。彼女たちは男性客に連れてこられた娼婦、女優、愛人たち、または浮気相手とおしのびで訪れた遊び好きの貴婦人たちであり、恥など忘れて、面白そうに舞台に見入っている。
「ううう……! は放せ!」
 ぺしん、と小人の一人がアキリアの尻を平手で打つ。観客たちのけたたましい笑い声。アキリアが屈辱に歯を食いしばっているのがリィウスには見えた。
「うう……!」
 一人の小人が、アキリアの頭をおさえつけたため、いっそう腰が上がり、淫らきわまりない格好になる。
「ああ!」
「けけけけけ!」
 ぺち、ぺち、と小馬鹿にしたように、小人の一人がアキリアの臀部をまたも平手でたたく。図に乗った別の小人が、おどけた仕草でアキリアの臀部の割れ目をめがけて、接吻する。
 どっ、と観客がわいた。
「くううう!」
 アキリアが屈辱に顔を真っ赤にしていることが、最前列に立っていたリィウスには、またも見える。リィウスは背に汗が伝わるのを感じ、無意識のうちに手を握りしめていた。
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