199 / 360
六
しおりを挟む
文句を言える立場ではない。口出しできるわけもない。こういった淫靡で卑劣な見世物が、当たりまえに行われていた時代である。負けた者をいたぶることを卑劣とみなす意識すらなかった時代のことである。敗れた者は、勝った者にどうされても仕方なく、金で買われた者は、買った者に生殺与奪の権利をにぎられているのが今の世である。
だが、つい先ほどまで勇ましく戦っていた女戦士の今の悲惨な姿は、見ていた痛ましくてたまらない。
また、愚劣な男たちの手や、残酷な観客たちの視線にいたぶられ、嬲られている彼女に、リィウスはつい我が身をかさねてしまうのだ。
「うう! よせ! やめろ! はなせ、下衆!」
身体の自由を完全にうばわれながらも、戦士の誇りを手放さず死にもの狂いで抗うアキリアは痛々しいほどに美しかった。
(誰か……止めてくれないだろうか)
リィウスは視線を辺りにさまよわせていた。皆、面白そうにこれから起こることを予想して、にやにやと笑っている。女たちも頬を染めて、過激な見世物に夢中になっているようだ。到底、誰も制止の声をあげてくれそうにない。
そのとき、斜め向かい側に立っていたウリュクセスが視界に入った。
上等そうな黒衣の衣に身をまとい、かすかに笑みをうかべて舞台を見ている。穏やかそうではあるが、やはり何か危ういものを感じてリィウスは目を伏せた。
「やめて! もう、やめてちょうだい!」
悲鳴のような女の声が突如、響いてきて、リィウスもふくめ観客たちの目は、声の主をさがした。
「こら!」 警護の私兵の声を振りきって、ほっそりとした人影が中央に向かっていく。
「やめて! もうやめて!」
亜麻色の衣をまとった若い娘だった。アキリアは二十三、四ぐらいだろうか。剣闘士のなかでは中堅で、この時代の感覚では若いとはいえないが、現れた女性は彼女より二つ三つ下だろうか。
アキリアの剣闘士仲間か……? とリィウスのみならず、周囲の人たちは思った。だが、その女人の姿形がはっきりと見えるようになると、彼女があきらかに剣闘士や女戦士と呼ばれる輩とは違うことがわかった。
だが、つい先ほどまで勇ましく戦っていた女戦士の今の悲惨な姿は、見ていた痛ましくてたまらない。
また、愚劣な男たちの手や、残酷な観客たちの視線にいたぶられ、嬲られている彼女に、リィウスはつい我が身をかさねてしまうのだ。
「うう! よせ! やめろ! はなせ、下衆!」
身体の自由を完全にうばわれながらも、戦士の誇りを手放さず死にもの狂いで抗うアキリアは痛々しいほどに美しかった。
(誰か……止めてくれないだろうか)
リィウスは視線を辺りにさまよわせていた。皆、面白そうにこれから起こることを予想して、にやにやと笑っている。女たちも頬を染めて、過激な見世物に夢中になっているようだ。到底、誰も制止の声をあげてくれそうにない。
そのとき、斜め向かい側に立っていたウリュクセスが視界に入った。
上等そうな黒衣の衣に身をまとい、かすかに笑みをうかべて舞台を見ている。穏やかそうではあるが、やはり何か危ういものを感じてリィウスは目を伏せた。
「やめて! もう、やめてちょうだい!」
悲鳴のような女の声が突如、響いてきて、リィウスもふくめ観客たちの目は、声の主をさがした。
「こら!」 警護の私兵の声を振りきって、ほっそりとした人影が中央に向かっていく。
「やめて! もうやめて!」
亜麻色の衣をまとった若い娘だった。アキリアは二十三、四ぐらいだろうか。剣闘士のなかでは中堅で、この時代の感覚では若いとはいえないが、現れた女性は彼女より二つ三つ下だろうか。
アキリアの剣闘士仲間か……? とリィウスのみならず、周囲の人たちは思った。だが、その女人の姿形がはっきりと見えるようになると、彼女があきらかに剣闘士や女戦士と呼ばれる輩とは違うことがわかった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる