燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「来るな! 来るんじゃない、ヒュパティア!」
 アキリアが悲痛な、悲鳴のような声で叫んだ。その名にリィウスは聞き覚えがあった。
 たしか……皇帝に反抗して学界から追放され処刑された有名な学者にそんな名前の娘がいた。
 その名が、リィウスが知るほどに世間に知られたのは、家が没落したあと、哀れな娘が奴隷に堕とされ売られた日に、奴隷市場がかなりにぎわったせいだ。
 もともとヒュパティアは美貌で知られており、市場には当日、彼女目当ての金満家が押しかけ、落ちた名花を手に入れようと激しく競りあったという。しまいには彼女には異国の女王並みの値がつけられたと聞く。よほど美しい娘なのだろうと、彼女を見たことのない人々も噂しあった。
 実際、リィウスはヒュパティアと呼ばれたその娘に目をやって、納得した。
 腰まで伸びた栗色の髪に、華奢な肢体、横顔は、ここから見ても充分美しいことがわかる。姿形の美しさだけではなく、全身から匂いたつような色気がある。それでいて下品にはならず、可憐ななまめかしさにあふれている。
「噂どおりの美女だな」
 どこかで、誰かが呟くのが聞こえる。
「やめて、お願い、やめさせて!」
 ヒュパティアは、先ほどリィウスがしたように辺りを見回し、今宵の宴の主であるウリュクセスを見つけるや、懇願した。
「お願いです、なんでもしますから、アキリアを助けて! 酷いことをしないで!」
 どうやら、彼女とアキリアは知り合いのようだ。いや、こんなふうに必死にアキリアを助けようとするからには、かなり親しい間柄なのだろう。
 もしかしたら、親戚か、もしくは友人なのか。学者の娘と女剣闘士のあいだにどういう繋がりがあるのかリィウスは不思議に思った。
「ヒュパティア、来るなと言ったろう! すぐ帰るんだ! ……ああっ!」
 ヒュパティアの登場に驚いていた三人の小人たちは、すぐに勢いをとりもどし、また執拗にアキリアにからんでいく。
 一人が遠慮もなく背後から胸を揉み、一人は臀部にしがみつき、一人は背中に乗るようにしている。その力がかなり強いらしくアキリアは逃れられず、彼らの思うようにされていく。
 三人の異形の男たちによって散らされていく美女、という、どこか絵物語めいた悲劇的で嗜虐的な光景が展開している。そこへ、また目の覚めるような美女があらわれたのだから、観衆は――リィウスもふくめて――芝居でも見るような心持で、なりゆきを見守っていた。
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