201 / 360
八
しおりを挟む
「ウリュクセス様、私がどんなことでもご命令にしたがいます! 二度と逃げようなんてしません! ですから……、どうかアキリアを許してください」
ヒュパティアは泣きそうな顔になり、いや、すでに白い頬に涙のあとを輝かせて、ウリュクセスに縋りついた。
「お願いです! アキリアを放してあげて!」
「馬鹿! おまえが頼んだって聞くような相手じゃない! 逃げるんだ、ヒュパティア」
アキリアの言っていることは事実だろう。膝をついて哀願しているヒュパティアを見下ろすウリュクセスは、かすかな微笑を浮かべている。そこに一片の慈悲も憐憫もないことをリィウスは感じた。
(この男は、楽しんでいるのだ……)
アキリアやヒュパティアが苦しむのを見て、喜んでいるのだ。
「お願いです! これからは、決してわがままを言いません。どんなお客様の相手でもします……」
最後の言葉を言いながら、ヒュパティアは泣きだした。
どうやら彼女はウリュクセスに買われ、彼の命令で客の相手をしているらしい。
美しい女を商売や政治の交渉の道具に使うことはよくある。側室や愛人に客の相手をさせる男もいるという。実の娘や正妻でも、利になるならば相手の男を妻子の閨へ送りこむ夫や父もこの世には大勢いる。この世界を支配しているのは、そういうことを平然とできる男たちだ。
女たちも己の肉体や美をみずから武器として使うことはあった。皇帝の妻や娘でも、身体を使って政治闘争を生きぬいた烈婦は歴史上いくらでもいる。
だが、裾が汚れるのも気にせず跪いているヒュパティアは、けっしてそういう類の女ではなさそうだ。
見るからに可憐で純情そうな娘である。二十歳は過ぎているようで、この時代ではやや年増といわれる年齢だが、それでもそのたおやかな身体からは、初々しい若さの光がにじみでている。ウリュクセスに買われたのだからすでに処女ではないだろうが、彼女からは清純さと純潔が感じられる。
ヒュパティアは泣きそうな顔になり、いや、すでに白い頬に涙のあとを輝かせて、ウリュクセスに縋りついた。
「お願いです! アキリアを放してあげて!」
「馬鹿! おまえが頼んだって聞くような相手じゃない! 逃げるんだ、ヒュパティア」
アキリアの言っていることは事実だろう。膝をついて哀願しているヒュパティアを見下ろすウリュクセスは、かすかな微笑を浮かべている。そこに一片の慈悲も憐憫もないことをリィウスは感じた。
(この男は、楽しんでいるのだ……)
アキリアやヒュパティアが苦しむのを見て、喜んでいるのだ。
「お願いです! これからは、決してわがままを言いません。どんなお客様の相手でもします……」
最後の言葉を言いながら、ヒュパティアは泣きだした。
どうやら彼女はウリュクセスに買われ、彼の命令で客の相手をしているらしい。
美しい女を商売や政治の交渉の道具に使うことはよくある。側室や愛人に客の相手をさせる男もいるという。実の娘や正妻でも、利になるならば相手の男を妻子の閨へ送りこむ夫や父もこの世には大勢いる。この世界を支配しているのは、そういうことを平然とできる男たちだ。
女たちも己の肉体や美をみずから武器として使うことはあった。皇帝の妻や娘でも、身体を使って政治闘争を生きぬいた烈婦は歴史上いくらでもいる。
だが、裾が汚れるのも気にせず跪いているヒュパティアは、けっしてそういう類の女ではなさそうだ。
見るからに可憐で純情そうな娘である。二十歳は過ぎているようで、この時代ではやや年増といわれる年齢だが、それでもそのたおやかな身体からは、初々しい若さの光がにじみでている。ウリュクセスに買われたのだからすでに処女ではないだろうが、彼女からは清純さと純潔が感じられる。
0
あなたにおすすめの小説
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる