燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 容姿の美しさもさることながら、彼女の善良で心優しい気質が、いっそう彼女を若く美しく見せるのだ。
「どうやら、あの噂は本当だったらしいな」
 誰言うともなく近くの男が笑いながら呟く。
「美貌の遊女ヒュパティアが、女戦士のアキリアと恋仲だというのは」
 どうやら、二人はそういう関係だったらしい。リィウスは納得がいった。この状況で、互いにかばいあう二人の姿には真情がこもっていた。
 男色にくらべれば、女同士の恋愛は少ないが、それでも世間にはないこともない。とくに、男勝りの女剣闘士にはそういう嗜好を持つ女も多いと聞く。二人はどうやら恋人同士だったようだ。
 リィウスが興味ぶかそうに聞き耳たてていたのが知れたのだろう。男はリィウスに説明するように語った。
「アキリアが毎回この宴で座興の試合に出るのは、恋人を守るためだ。試合は五回。最後まで勝ちぬいた者には、とびきり上等の女を与えられることになっているのだ。観客の前でな」
 最後の言葉には、ねとりと淫らな響きがこもっている。意味するところをさとって、リィウスは頬を熱くさせた。
「アキリアは優秀な女戦士だ。女戦士相手には小人か、身体に欠損を持つ者が当たることになっている」
 試合や戦、病などなんらかの事情で手足が欠けている者が出るという。
「そうでないと、勝負が見えてしまって面白くないからな。そしてアキリアはそういった敵と戦い、どうにか勝ちぬき、前回までは優勝者だった」
 男はにやにやと笑った。
「俺は前の宴の夜に、見たのだ。勝ったアキリアが、ウリュクセスにゆるされてヒュパティアをあたえられたところをな。勿論、皆の前でだ」
 一瞬、リィウスは目を見張っていた。
 清楚な乙女のようなヒュパティアが、観客たちの前でアキリアに与えられたなど、想像できない。リィウスの表情から気持ちを読みとったのか、男はみょうに真面目な顔で言う。
「嘘じゃないさ。俺はこの目で見たのだからな。すごかったぞ、二人とも。女同士のまぐわいというのは、ときに男女のものより濃厚で淫らだぞ。……くっ、くっ、くっ。あんた、真面目だな。赤くなっているのか?」
 リィウスは熱をもった頬を見られるのが嫌で下を向いた。

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