燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 人の波が少し動いた。
「おい、始まるぞ」
 誰かが呟く。
 ウリュクセスがヒユパティアの手を取って進み、三人の小人相手に断末魔のあえぎを吐いているアキリアの前に立った。
「アキリアよ、ヒュパティアがおまえの為ならなんでもすると言っているぞ」
 ウリュクセスが微笑を浮かべて告げる。だが、アキリアはけっして彼に目を向けようとはしない。
「ヒュパティア、愚かなことを言ってないで早くここから去れ!」
 小人たちに嬲られながらも、アキリアからは凛然たる気迫がただよってくる。リィウスは、このどん底の闇の世界にほのかな光を見るような切ない想いで彼女を見ていた。
 敗れても、けっして敗れることなき者の持つ気概と気高さがアキリアの全身からあふれてくる。
 だが、それがいっそうウリュクセスのような残忍な男の欲望をあおることに彼女は気づいていない。いっそ、彼女が弱さを見せて泣き出したり哀願したりした方が、まだ救われる可能性があったろう。
「ヒュパティア、では、おまえが今宵のお客様を満足させるために、アキリアの代わりにこいつらの相手をするか?」
 今しも、アキリアの尻のはざまに鼻をこすりつけていた剣闘士の小人が破顔した。
御館おやかた様、俺にこんなすごい美人をくれるんですか?」
 マルクスの言葉にヒュパティアの背中がこわばったのが、リィウスからはしっかりと見えた。
 なんとかして恋人の窮地を救ってやりたいのだろうが、その代償は大きい。
「どうする、ヒュパティア。おまえがマルクスたちの相手をこの場でするのなら、アキリアはゆるしてやるぞ」
「よせ! 相手にするな、ヒュパティア! あうっ!」
 パシン、とマルクスという小人戦士が平手でアキリアの臀部をたたく。
「うるさいぞ、女」
 どっ、と人々がわき、嘲笑がたつ。
「うう……!」
 頭より突き上げる姿勢にされている臀部は、自分を負かした小人に打擲されて、屈辱と怒りのあまりふるえている。その残酷で嗜虐的な様子が、また観客の心をわかす。

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