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三
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「今、女イカロスが飛び立ちます!」
まさか……、という思いがリィウスの胸にわく。
(まさか、そんな……)
だが露台の手すりの上に立っているのは、やはりサラミスだった。背に、奇妙な物を背負っている。
それは、伝説のイカロスが空を飛ぶことを願って羽毛をあつめて作った翼に似せて作った物のようだ。
蝋でつなげた翼は、イカロスが太陽に近づいたため陽光の熱で蠟が溶け、羽毛が散り、イカロスも墜落死したのだ。
まさか……とリィウスは再び思った。
サラミスの姿はおぼろげながら見えるが、顔は見えない。どんな表情をしているのだろう。
彼女の細い影の向こうには例の私兵か、二人の影が見える。男の影はサラミスを突き出すように押す。彼女は抵抗しようとしないが、動きはおぼつかなかった。
「怖くないのかしら?」
貴婦人が孔雀の羽の扇で口元を隠して、気味悪そうに露台を見上げて呟くのが聞こえる。
「おそらく薬をかがせているんだろうよ」
連れの男が同じように露台のあたりを見上げながら囁く。
リィウスはなすすべないまま、ただ見ていることしかできなかった。
(嫌がれ、抗うのだ、サラミス!)
そう思ったところで詮無いことだった。
夜空から聞こえてきたのは、悲鳴ではなく笑い声だった。笑っているのだ、こんなときに。薬のせいなのか、己の意志で笑っているのかはわからない。
それは、だが、リィウスが聞いたサラミスの最後の笑い声だった。
ふらふらと、露台の手すりに立つサラミスは、そこで踊りの動作のような動きをしている。薬の見せる夢のなかで踊っているのかもしれない。恐怖を感じていないことが、唯一の慰めだったろう。
「うまい〝舞〟じゃないか」
観客のなかには、そこで「女イカロスの舞」は終わるのだと思っていた者も何人かはいたろう。あの高さで、手すりの上でまがりなりにも舞踏の動きをとっただけでも、ひとつの芸である。だが、そこで終わりはしなかった。
ウリュクセスが召使の一人に目配せをした。
指示を受けた召使は青銅の銅鑼を鳴らす。
まさか……、という思いがリィウスの胸にわく。
(まさか、そんな……)
だが露台の手すりの上に立っているのは、やはりサラミスだった。背に、奇妙な物を背負っている。
それは、伝説のイカロスが空を飛ぶことを願って羽毛をあつめて作った翼に似せて作った物のようだ。
蝋でつなげた翼は、イカロスが太陽に近づいたため陽光の熱で蠟が溶け、羽毛が散り、イカロスも墜落死したのだ。
まさか……とリィウスは再び思った。
サラミスの姿はおぼろげながら見えるが、顔は見えない。どんな表情をしているのだろう。
彼女の細い影の向こうには例の私兵か、二人の影が見える。男の影はサラミスを突き出すように押す。彼女は抵抗しようとしないが、動きはおぼつかなかった。
「怖くないのかしら?」
貴婦人が孔雀の羽の扇で口元を隠して、気味悪そうに露台を見上げて呟くのが聞こえる。
「おそらく薬をかがせているんだろうよ」
連れの男が同じように露台のあたりを見上げながら囁く。
リィウスはなすすべないまま、ただ見ていることしかできなかった。
(嫌がれ、抗うのだ、サラミス!)
そう思ったところで詮無いことだった。
夜空から聞こえてきたのは、悲鳴ではなく笑い声だった。笑っているのだ、こんなときに。薬のせいなのか、己の意志で笑っているのかはわからない。
それは、だが、リィウスが聞いたサラミスの最後の笑い声だった。
ふらふらと、露台の手すりに立つサラミスは、そこで踊りの動作のような動きをしている。薬の見せる夢のなかで踊っているのかもしれない。恐怖を感じていないことが、唯一の慰めだったろう。
「うまい〝舞〟じゃないか」
観客のなかには、そこで「女イカロスの舞」は終わるのだと思っていた者も何人かはいたろう。あの高さで、手すりの上でまがりなりにも舞踏の動きをとっただけでも、ひとつの芸である。だが、そこで終わりはしなかった。
ウリュクセスが召使の一人に目配せをした。
指示を受けた召使は青銅の銅鑼を鳴らす。
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