燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 頬を熱く燃やしてうなだれているリィウスの心情をすべて見抜いたように、ウリュクセスが声をかけてきた。
「どうだい、あの〝馬は〟? 気に入ったかな?」 
 リィウスは目の前の悪魔の言葉に慄然とした。
 馬……。その言葉が意味するところが、おぼろげながら理解できてしまった自分が悲しくなる。
「さ、乗り心地を試してごらん」
「や、やめてくれ!」
 リィウスは悲鳴をあげていた。
 いつしか足音もなく忍び寄ってきた私兵が、両脇からリィウスの身体に触れてきた。
「は、はなせ! 私に触るな!」
 柘榴荘で受けた、あのおぞましい屈辱の記憶が鮮烈によみがってきて、リィウスは身震いせずにいられない。
 そんなリィウスを面白そうに見ているウリュクセスの目には、ひとかけらの人間性も見られなかった。
「さ、おいで」
 リィウスは、このとき男の意図を決定的に確信した。まだ、心の片隅で、違うのではないかと儚い希望を持っていたのだ。
 だが、今やこの男の目的と、これから己の身に起こることがはっきりと察せられ、泣き出したくなる。
「い、嫌だ……! 触るな! は、はなせ!」
 私兵二人に両腕を取られ、リィウスは必死にあらがったものの、ずるずると引きずられて中央に立たされてしまった。
 トュラクスに近づいていくにしたがって、熱波のような彼の体温が感じられれきた。
「トュラクスよ、今宵はおまえを馬にしてやろう」
 トュラクスが黒い目に、みなぎるばかりの憎悪とあふれんばかりの殺意を込めてウリュクセスを睨みつけた。その視界に自分も入っているのかと思うとリィウスは泣きたくなった。
「い、いやだ……」
 だが主の命令に忠実な二人の兵士は、リィウスがどれだけ嫌がっても離してはくれず、それどころか、リィウスのまとっている衣を剥ぎ取ろうとする。
「は、はなせ! さわるな!」
 新たな見世物の登場に熱くなった観客たちの視線が、剝きだしにされた肌に突き刺さってくるのが感じられる。リィウスは無駄だとわかっていても抗わずにはいられない。
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