燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「その嫌がる顔が美しい……。男、いや、男でも女でも、苦悶にあえいでいるときの顔がもっとも美しいのだよ。さぁ、これから君の一番美しい顔を見せてごらん」
「よ、よせ!」
 狂人のたわごとなど聞きたくなかったが、耳をふさぐことはできなかった。
「さぁ、〝馬〟に乗ってごらん」
「い、いやだ!」
 リィウスが叫んでも、抗っても、男たちが止めてくれるわけもなく、リィウスは力ずくで、ウリュクセスののぞむ姿を強いられた。
 革の猿ぐつわをはめられているトュラクスが、いっそう強く猿ぐつわを噛みしめているのがちらりと目に入った。
「ああ……」
 リィウスは絶望の吐息をはなった。
 容赦なく、男たちはリィウスの身体をトュラクスにかさねあわせようとする。
「い、いやだ! はなせ! あっ、ああっ、あああっ、く……うっ……、うう!」
 あられもなく脚を開かされ、トュラクスの背をまたぐかたちになる。客たちの視線の針が束となって突き刺さってくるのを感じた。
「邪魔なその布切れを取れ」
「い、いや!」
 ウリュクセスの命に、ちょうどリィウスの左側にいた兵が、「はっ」と頷くや、下帯を剥ぎとった。空に、布の飛ぶ音が響いた。
「ああぁっ!」
 女のような哀切な悲鳴をあげてしまった自分をリィウスは心底呪った。
 どっ、と客たちの笑い声で鼓膜が破れそうだ。
 だが、羞恥に泣く暇もなく、次の危機が身に迫ってくる。
(あ……)
 背後に異物の感触をおぼえ、リィウスは瞑目した。
 閉じた瞼から、白く光る涙がこぼれるのに気付いた観客が何人いたろう。
 リィウスの白い脚が、トュラクスの琥珀色の肌に触れる。
 ウリュクセスの手が伸びてきて、ウリュクセスの背中の道具を支え、リィウスの身体に合わせるため、手を添える。
「ううっ、ううっ、くぅっ……、あ、よ、よせ!」
 あらかじめ、濡らしてあったのか、驚くほどすんなりと、その冷たい道具がリィウスの身体になじんできた。
 リィウスの耳に響く観客たちの嘲笑や喝采は雷のようだった。
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