燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

文字の大きさ
231 / 360

しおりを挟む
「あっ、あっ、待って、待ってくれ!」
 だが、トュラクスはウリュクセスの命を優先させるしかない。
「おお、早い、早い」
 げらげらと笑っていた観客たちも、かつては全ローマにその勇名を知られた希代の美丈夫の哀れきわまりない姿に、やがて陶然となった。
 揶揄や嘲笑も盛りを過ぎ、いまや皆魅入られたようにトュラクスとリィウスの奇妙な共演に夢中になっている。
 リィウスがいたたまれなさそうに伏せた顔を、切なげにかしげたり、堪らなさそうにのけぞってうなじを見せたりする様子のなんともいえない淫靡さと、あふれる官能美と、それでいて崩れることのない気品に、観客たちは息を飲んだ。これほど浅ましい姿をさらして、尚リィウスにはどこか清純なところがある。
 さらに彼の下になって、不自由な身体で、まるで彼に奉仕するかのように全力を尽くすトュラクスの歪められた眉や猿ぐつわを噛みしめる顔の痛ましくも凛々しい様にも見る者は胸をかきむしられる。不様きわまりない姿となっても、耐える肉体の見せる鋼のごとき強靭さは人の心を打つ。
 まったくおもむきは違うが、どちらも美しい青年であり、どちらも苦悶に染まった顔から、その自尊心の高さが感じられ、見る者の胸を打つ。そして、いっそうの嗜虐心を引き立てるのだ。
 トュラクスの激しい動きに合わせて、リィウスも自然に身体を前後に動かすようになっていた。足先は少し膝を外に曲げるかたちで石床についており、その姿は淫猥そのものだ。それを自覚したリィウスは頬をこれ以上ないほどに赤く燃やして悲鳴をあげる。
「ああっ、ああっ、あああああ!」
 絶妙な刺激がトュラクスの背からリィウスの腰へと伝わってくる。
「ま、待って、待ってくれ、トュラクス……!」
 咄嗟にリィウスは相手の名を呼んでいた。まるで情事のときに相手に縋るように。下のトュラクスが一瞬、動きを止めた。
「こら、止まるな!」
 すかさずまたウリュクセスが叫ぶ。
 ローマ最高の二体を己の玩具にして思うがままに自由にもてあそぶこの悪魔は、残酷な遊戯にすっかり夢中になってしまっている。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

少年探偵は恥部を徹底的に調べあげられる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

処理中です...