燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 次の瞬間、壮絶な声音がリィウスの鼓膜に響いてきた。
 激しい、咆哮と嗚咽のような、怒声と悲鳴がまざりあったような凄まじいわめき声に、リィウスは一瞬、おのれをさいなむ下肢の熱を忘れた。
「あら、あら、どうしたの? ご機嫌ななめのようね、このお馬は」
 女の陰険な笑い声に、耳をふさぎたいがそれもできず、ただ脚の下の燃えるような熱い肉体の動きにリィウスは翻弄された。
 トュラクスの、人間のものとは思えぬ声にもウリュクセスは動じない。
「この馬はかなり怒っているようだな。だが、トュクラスよ、おまえが言うことを聞けないのなら、ミュラに代わりに宴に出で客を慰めてもらうことになるのだぞ。さぁ、どうする? 言うことを聞くか? 嫌ならいいのだぞ、ミュラを呼ぶまでだ」
 激しい声は、力をなくしていった。
 卑劣な脅しにトュラクスは屈するしかない。
 トュラクスにとっては自分の自尊心や誇りよりも、そのミュラという恋人の命の方が大事なのだ。痛ましさにリィウスの方が泣きたくなる。
 アキリアやリィウスに対してした仕打ちにしても同様だが、この連中は人の弱みを徹底的に突き、誇り高き者の魂を完膚なきまでに打ちのめそうとするのだ。愛する者を守りたい、そのためなら自分はどうなってもいい、という痛ましいほどの自己犠牲の精神につけこんでいるのだ。
 リィウスの頬に、新たな涙がながれた。自分のために泣くのではない。トュラクスが不憫でとめどなく涙が頬を伝うのだ。
「……泣き顔がまたいっそう美しいわね。悔しいわ……。おまえはこの麗しい顔であれを誑かしたのね」
 エリニュスの言っていることはよくわからないが、それよりも、ウリュクセスの叱咤に合わせてトュラクスがまた動きだしたことにリィウスは気を取られた。
「あっ、ああっ、ま、待って、待ってくれ!」
 トュラクスの動きに合わせて下肢が震え、繊細な内部に埋めこまれた道具が絶妙な振動をもたらす。
「はっ、あうっ……!」
 リィウスは苦しさに首を横に振った。逃れたくとも両手は頭上で縛りあげられ、腰は完全にトュラクスと癒着してしまっている。本当に彼と一体になったような錯覚に全身が発火しそうだ。
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