燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 メロペが予見したように、どうやら彼は地獄で車輪にくくりつけられるギリシャ神話のイクシオンの役をさせられているようだ。イクシオンは愚かにも神々の王ゼウスの妻ヘラに横恋慕し、彼女を誘惑しようとした罪でタルタロスに落とされ、車輪にくくりつけられて拷問されることになったのだ。
 残酷な見世物に人々は興奮している。
 アウルスは冷めた目で、イクシオンを見て興じる客を観察し、あらためて軽蔑した。
(腐った世界だ)
 じわじわと、アウルスのなかに不敵かつ不穏な想いがわく。
 今に見ているがいい……。そんな怒りすら含んだ想いがアウルスを昂ぶらせる。
(いつか、こんな腐敗した世界を壊してやる。この俺が、この世界を変えるのだ)
 いったい誰が、アウルスの想いに気付いたろう。気づいた者などいないだろう。
 こんなことは友であるディオメデスやメロペにも言ったことはない。今日までずっと胸に秘め隠しつづけてきた激しい、復仇めいた想いである。
 アウルスが苛々している間にも見世物はつづき、奴隷の悲鳴と叫びに客が飽きはじめたころ、広間の蝋燭の数が減らされた。
 隅にひかえていた楽士たちが雅な曲を奏で、辺りになまめいた雰囲気が満ちてきた。
 かおってくるアラビアの香が鼻腔を刺激する。
 人々が音楽に気をとられているうちに、いつのまにか中央に置かれていた車輪や、奴隷の姿が消えていた。〝役者〟が変わるようだ。
 薄闇のなか、あらわれたのは一人の女だった。
(まぁ、けっこうな美女だな。人によっては好みではないと言うかもしれないが)
 アウルスは観客に徹して、新たな役者を観察した。
 女は薄物一枚しかまとっておらず、身体の線が丸見えだが、なかなかの肉体美だった。筋肉が発達しており、一目見て女剣闘士だと知れる。
 背の低い男が、おどけた動作で彼女の側に寄ってくる。道化の登場に、観客たちは興を引かれたようだ。


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