燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 ほぼ想像していたとおりだが、女はあられもない姿で、小人と呼べるような男と戦った。互いに武器を持たない格闘でだ。
 どこまでが芝居なのかわからないが、演技だとしたら、なかなかの名優と思わせるほどに怒りと嫌悪が女の全身から滲みでている。
 互いに殴ったり、蹴ったり、容赦していない。小人の顔に鼻血が散った。
 客たちはますます面白がり、喝采をおくる。だが、これ以上つづくと、そろそろ客が飽きだすかという頃をみはからって、もう一人の小人が中央にあらわれた。 
 一対一なら負けなかったろうが、いかに小人とはいえ男二人では、さすがの女剣闘士もかなわない。やがて女は悲鳴をあげた。
「畜生! 二人がかりで卑怯じゃないか!」
 そういう声も芝居ではなく、真剣そのものだ。演出ではなく、本当に女は怒っているのだ。その真剣さが、ますます見る者の嗜虐心を煽るようで、あたりの空気が熱くなる。
 そこから先は、火を見るより明らかな展開だった。
 女は卑しげな笑いを見せる小人二人に薄物を剥ぎとられてしまう。
 女の悔しげな唸り声がアウルスの耳にも響いてくる。アウルスは我知らず唇を噛んだ。
 よくある見世物だとは思うが、胸が詰まるような心持になるのは、客たちの前で嬲られている女が、こんな状況でもけっして最後まであきらめず、死にもの狂いで必死に抵抗しているせいだ。
 アウルスは、一瞬、走り出て女を助けてやりたくなった。そんなことを思っている自分をわらった。
(柄にもない……)
 ディオメデスやメロペと組んで散々悪い遊びをしてきた彼だ。金で買った処女の奴隷娘を三人がかりで、その初花を引きちぎるような真似も平然とした。悪友が、零落れいらくしたかつての学友リィウスを金で買っていいように凌辱していたときも何もしなかった自分が、今更そんな正義感にかられて青臭い真似をするなど、想像しただけで笑い出しそうになる。
 もっとも、金の力でリィウスを弄んだディオメデスは、それこそヴィーナスとキュピドの罠に落ちて、恋に狂ってしまったが。
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