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バッカッスの狂宴 一
しおりを挟む「明日の宴の主役はおまえたちよ」
エリニュスに地下に呼ばれたリィウスは、不安をなるべく顔に出さないようにしたが、やはり頬がこわばっているのを自覚した。
「明日は面白いお客が大勢来るわ。皆おまえが目当てなのよ」
今夜のエリニュスはもはや顔をかくしてはいない。彼女のまだ充分若々しく見える白い頬や、豊かな金髪、蠱惑的に光る瑠璃の瞳は、どれも素晴らしい美質ではあるが、リィウスにとっては不吉に思えてしかたない。
リィウスのすぐそばには今も鎖につながれたトュラクスもいる。こんなときでも、反抗的な子どものようにむっつりとした顔をして床に座りこんでいる。
あれからこの屋敷の地下で、気まぐれに訪れるエリニュスやウリュクセスによって、二人はおぞましい辱しめを幾度となく受けたが、どれほどいたぶられてもリィウスもトュラクスも自尊心をうしなうことはなかった。このことを、リィウスはひそかに誇りに思っている。
だが、そんな二人のけっして挫かれることのない誇りと、砕かれることなき気骨は、いっそうこの魔女の神経を逆なでするようで、エリニュスは険しい顔を見せた。
「おまえたち二人には、またケンタウロスの役をしてもらうわ」
さすがにリィウスは背が寒くなる。
また、あのおぞましい行為を強要されるのかと思うと、全身の肌が粟立つ想いがする。
「い、いやだ、あれは、もう嫌だ!」
感情をたかぶらせれば、それこそエリニュスの思うつぼだとはわかっているが、リィウスは声を荒らげずにいられない。
「まぁ、どうしたのよ、そんな顔をして。よっぽどお馬乗りが気に入っているようね」
エリニュスの背後には屋敷の私兵たちが数人並んでいる。あの夜、リィウスを押さえつけ、トュラクスの背にまたがらせた男たちだ。
あのときの全身を針で貫かれたような恐怖と屈辱が一気によみがえった。
「さ、準備をするわよ。道具を持っておいで」
命じられた兵士が言われたものを手にして進み出た。それを見た瞬間、リィウスは身体から血が引く想いがした。
「よ、よせ! 来るな! 私に触るな!」
トュラクスとちがってリィウスは戒められてはいないが、数人の兵士を相手に逃げきれるわけもなく、はかない抵抗のあと、彼らによって先日とおなじように両腕をつかまれ、みじめにとらわれエリニュスの前に立たされる。
「おまえたちは気が狂っている!」
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