269 / 360
十一
しおりを挟む
涙と血に潤んだ瞳。アウルスは頭を振ってその幻を振り切った。
アウルスがついぼんやりしているうちに、舞台となる中庭中央には、別の趣向の準備がされていた。
人々のざわめきが大きくなる。
おそらく、今宵の客の大半は、闇の世界の噂に伝え聞く、たぐいまれな美貌の男娼の噂に引かれて、この宴に集まったのだろう。
アウルスはその男娼が誰か見当がついていた。ディオメデスもメロペたちも感づいているはずだ。だからこそ来たのだ。
「今宵はようこそ、皆様。次にお見せするのは、『ケンタウロスの踊り』ですわ。もしくはギリシャ神話の牧神パン……ファウヌスの舞と名付けるべきでしょうかしらね」
声高々に笑いながら言う女はマルキアだ。この女は、館の主であり宴の主催者でもある男と親しいようだ。
アウルスも馬鹿ではない。いろいろと手を尽くして闇の世界のことについても調べてみた。この館の主がローマの闇市場や暗黒世界にかなりの力を持つ影の権力者であることは、ディオメデスから聞いた話でも知っていたし、アウルス独自の伝手や知己からも聞き得ていた。
そんな男とディオメデスの義母が親しくしているというのも、なんとも物騒できな臭い。ますますディオメデスはマルキアを警戒したほうがいいだろう。彼はまだあの女を甘く見ているところがあるが、あれは思っている以上に裏のありそうな女である。なにより気になるのは、ディオメデスも言っていたことがあるが、過去が調べても出てこないことだ。完璧に隠しているということは、それだけ後ろぐらいところがあるせいだろう。
そんなことを思っていると、当のマルキアが真紅の衣の裾を散らして〝舞台〟に進み行く。
「ご覧ください、今宵の主役たちを」
声とともに薄闇に浮かんできた新たな影に、アウルスはじめ、観客は目を引かれた。
ディオメデスやメロペ、ナルキッソスも、それぞれの場所から、マルキアが指差した方向に目を向ける。
最初、それは不気味な黒い塊のように見えた。漆黒の布をかぶっていたので、そう思えたのだ。マルキアによって布が引かれ、くずれ落ちると、そこには奇妙な生き物がいた。
アウルスがついぼんやりしているうちに、舞台となる中庭中央には、別の趣向の準備がされていた。
人々のざわめきが大きくなる。
おそらく、今宵の客の大半は、闇の世界の噂に伝え聞く、たぐいまれな美貌の男娼の噂に引かれて、この宴に集まったのだろう。
アウルスはその男娼が誰か見当がついていた。ディオメデスもメロペたちも感づいているはずだ。だからこそ来たのだ。
「今宵はようこそ、皆様。次にお見せするのは、『ケンタウロスの踊り』ですわ。もしくはギリシャ神話の牧神パン……ファウヌスの舞と名付けるべきでしょうかしらね」
声高々に笑いながら言う女はマルキアだ。この女は、館の主であり宴の主催者でもある男と親しいようだ。
アウルスも馬鹿ではない。いろいろと手を尽くして闇の世界のことについても調べてみた。この館の主がローマの闇市場や暗黒世界にかなりの力を持つ影の権力者であることは、ディオメデスから聞いた話でも知っていたし、アウルス独自の伝手や知己からも聞き得ていた。
そんな男とディオメデスの義母が親しくしているというのも、なんとも物騒できな臭い。ますますディオメデスはマルキアを警戒したほうがいいだろう。彼はまだあの女を甘く見ているところがあるが、あれは思っている以上に裏のありそうな女である。なにより気になるのは、ディオメデスも言っていたことがあるが、過去が調べても出てこないことだ。完璧に隠しているということは、それだけ後ろぐらいところがあるせいだろう。
そんなことを思っていると、当のマルキアが真紅の衣の裾を散らして〝舞台〟に進み行く。
「ご覧ください、今宵の主役たちを」
声とともに薄闇に浮かんできた新たな影に、アウルスはじめ、観客は目を引かれた。
ディオメデスやメロペ、ナルキッソスも、それぞれの場所から、マルキアが指差した方向に目を向ける。
最初、それは不気味な黒い塊のように見えた。漆黒の布をかぶっていたので、そう思えたのだ。マルキアによって布が引かれ、くずれ落ちると、そこには奇妙な生き物がいた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる