燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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熾火 一

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 ひときわ声が高くなったのは、カニディアが舌先で、トュラクス自身の先端を突き、舌でゆっくりと舐めあげたせいだ。
 トュラクスの悶絶ぶりを見て、ウリュクセスが満足そうに笑った。
「どうだ? たいしたものだろう、カニディアの舌は? これで堕ちなかった男も女もいないぐらいだ」
 カニディアは女も好むらしい。そして、どちらの道にかけても卓越した手管を持っているようだ。
 顔を真っ赤に燃やしながら、トュラクスの閉じた両目からは光るものこぼれたことにリィウスは気づいた。
 それが屈辱と苦痛のためではなく、あまりにも度を越した快感のせいだということは、首筋から匂うような男の艶が物語っている。
 リィウスは胸がかきむしられるほどの痛ましさと切なさに震えた。
 だが、うっすらと気づいた。切なさの奥底に、ほのかな疼きがあることを……。
(まさか……)
 とは思うものの、リィウスの胸も下肢もじんわりと熱くなってきている。
 しのびよる熱波……、いや、己のうちにひそんでいた熱情が、トュラクスの羞渋しおののく姿に引きずりだされたのだ。
 無念と恥辱に身もだえする男の姿に、リィウスはあろうことか劣情を感じて身体を熱くしているのだ。
 なんと浅ましい。無理強いされて苦しんでいる人間を見て情欲に濡れるなど……! そう自分を叱咤してみても、身の内にともった火は消えない。
(そんな……、そんな、ああ……、どうしよう……)
 この場から逃れたい、消えてしまいたい。だが、かなわない。いっそ、死んでしまいたい。リィウスは本気でそう思った。
 自分がかつて手酷い責め苦を受けていたときよりも、何百倍もつよく今リィウスは死を望んだ。死んで、この罪から逃れたい。
 もともと清廉でまっすぐで、正義感や道徳心も人一倍つよいリィウスである。自分が凌辱されていたときよりも、トュラクスが淫らに責められている姿に胸をいためているというのに、それでいて下半身はうだるように熱くなってきているのだ。
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