燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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(なんて……私は……恥知らずな)
 柘榴荘でタルペイアに屈辱の調教を受けたときよりも、ディオメデスたちに嬲りものにされたときよりも、強烈な恥の意識にリィウスは眩暈めまいすらしそうになった。
 ぜったいに知られたくない己のうちの欲望を、まっさきに見抜いたのはエリニュスだった。
「あら、リィウスはもう待ちきれないようね。トュラクスを見て、欲しくなったようね」
 ウリュクセスや私兵たちの目がリィウスに集まる。頬が火を吹きそうになった。
 薄手の衣はリィウスの感じやすい身体の変化をかばってはくれない。淫らな視線の攻撃にリィウスは打ちのめされた。
「ほほほほ。待っておいで。このあと、存分におまえも楽しませてやるわ。カニディア、もう少し楽しみたかったけれど、後がつかえているようだから、早くトュラクスの気をやっておしまい」
 動きにくい姿勢でカニディアが頷くような仕草を取ると、トュラクスの逞しい身体がふるえた。
 これほどの肉体美を誇る男のなかの男でも、中心の弱いところを奪われてしまうと、強く抗うことができなくなり、翻弄されてしまうのだ。
 トュラクスはいっそう顔を熱くして、歯を食いしばった。つむった目が、幼児を思わせ、見る者の胸をじんわりと疼かせる。
「はぁっ! ああっ、ああっ、あああっ! くぅぅぅぅ!」
 子どものような、女のような、今までの彼ならば、どれほど責められても決して見せなかった頼りない表情をさらした果てに、全身を震わせた。筋肉のはりつめた太腿が、びくびくと震えている。
「おお、」
 声をあげたのはウリュクセスだった。
 闘技場では不動を誇ったトュラクスの肉体が、怯えたように震えつづける。
「あぁ……!」 
 無念と屈辱と、悔恨と、そして、ひそやかに悦楽の響きを込めた声が、唇からこぼれた瞬間、地下に緊張の糸が張った。誰もが固唾をのんで彼の表情を見つめていた。
「はぁ……。ああ……」
 どんな美女や美姫、貴婦人、名だたる娼婦ですら持ちえぬ独特の色気が、匂うように立ちのぼる。リィウスの放つ色気ともちがう。男が、真の男が屈服するときにこぼす壮絶な被虐の美が炎のように辺りを舐め尽くすのだ。 
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