燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 このときのエリニュスの顔は、興奮と憎悪と、満足がまじりあった奇妙なものだった。怒っているのか喜んでいるのか判らない。もしかしたら怒りつつ喜んでいるのかもしれない。
 自分を袖にして恥をかかせたトュクラスを徹底的にいたぶり、男として最大の恥辱を与え、二度と立ち直れないまで追い詰めようとしておきながら、それでいて尚見せるトュラクスの凛々しさ、挫けることなきまっすぐな気性を喜んでいるのだ。
 この辺りの心理は、リィウスをとことん凌辱しながら、決して汚れぬリィウスの天性の美質にいっそう溺れていったディオメデスとも共通するものがあるのかもしれない。
「そいつに触るな!」
(そうよ、そうこなくては……)
 そんな舌なめずりするような雌獅子の心の声が響いてくるようだ。
 これほど不利な状況であっても、リィウスを守ろうとするトュラクスを見つめるエリニュスの表情も目つきもいよいよ理性をなくしてきている。その危険きわまりない女に向かって、迂闊にもトュラクスは叫んだ。
「おまえの狙いは俺をいたぶることだろう? 関係ない奴は巻き込むな!」
 ますます火に油を注ぐようなものだ。
「ほほほほ。まだ自分は強い男のつもりなのね」
 うっとりと、エリニュスはトュラクスの筋肉の張りつめた胸板を撫であげる。その肉の肌触りは、エリニュスにとって、貴族の絹のトーガはおろか、皇帝の紫衣よりも魅惑的なものなのだろう。男の強さ、誇り、信念でもって編まれた天然の衣。そうであればこそ、それを剥ぎ取ってしまいたくて仕方なくなるのだ。
「ほほほほ。後ろにこんなものをぶら下げておきながら、よくもそんな偉そうなことが言えるわね」
「うっ!」
 トュラクスの背後には、先ほどカニディアによって挿入された道具が、茸のように突き出ている。
 エリニュスが何をしようとしているか、その場にいる全員が気づいていた。
「さぁ、早く準備をするのよ。お互い、顔が見えないのは残念でしょうが、その分、楽しい声を聞かせあってやるといいわ」
「よ、よせ!」
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