燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 トュラクスの怒りをふくんだ悲鳴に、リィウスも引きずられるように身体をおののかせた。
 あっという間に男たちに力づくで薄衣をうばわれる。白絹のような肌があらわになり、一瞬、獣のような男をひるませた。
 恥じらえば、いっそう恥ずかしいだけだと思うものの、人前に肌を晒すことに慣れていなりリィウスには厳しい試練であり、全身の毛が粟肌たつ想いだ。
(おまえの人並み以上の羞恥心は、男の心をそそるわ。それは身を売る者としてはひとつの魅力になるでしょうけれど、おまえにとっては辛いことになるわね)
 めずらしく本気で同情をこめてタルペイアが言ったことがあったが、たしかにそうだった。幾度となく衣をうばわれ、屈辱の痛みをたたきこまれても、リィウスの身も心も視線の狼藉に慣れることはなかった。
 最初は慎ましやかな良家の令嬢や貴婦人でも、身を売るうちに羞恥を振り捨てていくものだそうだが、リィウスはそうならなかった。
(柘榴荘の女たちには、男の気をひくために恥ずかしがる振りはするようにと教えなければならなくなるぐらいだけれど、おまえにはその必要はまったくないわね。でも、そうなると、おまえは客を取るたびに辛い想いをしなければならないでしょうね。羞恥心をなくすことができないのだもの)
 タルペイアが言ったとおり、今もリィウスは卑しい男たちの粘つく視線を受け、身を切られる痛みに耐えなければならない。
 だが、そんなものはまだ序の口だった。
「さぁ、たがいにお尻を突き出しあうがいいわ」
 あざけりをこめた女の残忍な声が響く。
「ほら、さっさとしろ。手こずらせるな」
 男たちのなかの頭らしき兵が、乱暴にリィウスの腕をひっぱる。
「さ、さわるな!」
 リィウスは必死に抗ったが、多勢に無勢でどうにもなるものではない。
 どのみち、言われるままにするしかないことは頭ではわかっているのだが、どうしても心は乱れて抗わずにいられないのだ。奴隷契約をむすび、男娼修行をしたリィウスですらそうなのだから、生まれながらの戦士であるトュラクスの心の乱れはさらにはなはだしい。
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