燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 トュラクスが首をひねった。敵を見る彼の双眼には憎悪と侮蔑が燃えており、マヌグスの背に心地よい戦慄を走らせる。
 自分は今、トュラクスを怒らせ、ありったけの憎悪という、全身全霊かけた、魂からの情動をぶつけられているのだ。それが、これほど快感で幸福だとは。
 他人には決して理解してもらえないだろうが、マヌグスは幸せでたまらない。
 勿論、あの夜のことは、合意の上ではない。ウリュクセスやエリニュスに命じられ、トュラクスを徹底的に屈服させるため、彼に死ぬほどの恥辱と屈辱をあたえるためにしたことだ。身体の自由をうわばれ、なおかつ最愛の恋人の命を楯に取られて、トュラクスは歯軋りしながらもマヌグスを受け入れざるを得なかった。
 マヌグスは思い出して腕に力を込めた。この腕に抱いている、これほど素晴らしい肉体と精神を持つ男を、俺は意のままにし、凌辱したのだという満足感。
「ここで、俺をくわえ込んだろう?」
 武骨な指で、そこをつついてやる。 
 臀裂でんれつをさぐり、花の蕾を強引に開くように、トュラクスの後ろの園を人差し指と中指の二本でえぐる。
「んっ、んんんんっ、」
 どれほど強靭な身体を持っていても、そこは繊細で敏感で、未知の部分だ。
 入ってきた二本の指に翻弄され、トュラクスは無念の吐息をはなつ。
 マヌグスは背後からトュラクスの胸に手をのばし、女にでもするように、ふくらみなどない胸を揉む。
「は、はなせ!」
「今更、つれないことを言うなよ」
 抱きしめながら、身の内に燃える欲望にせっつかれた。腰の紐をみずからゆるめると、相手の小さな園にすりつける。
「よ、よせ! 馬鹿な真似はやめろ! ウリュクセスに言うぞ」
 側で見ていた少年が、困ったような顔になって顔を伏せる。マヌグスは使用人や奴隷たちのあいだでは、怖れられている。すぐに暴力を使うからだ。力で人を支配する方法は、軍隊時代に上官から教わった。 
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