燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「はぁ……、ああっ!」
 踏ん張るように両脚を外側に向け、トュラクスの動きについていこうとするリィウスの姿は惨めそのものだった。
 それを見て、笑ったり、揶揄からかったり、なかには――女人であるが――気取ってわざとらしく不快そうに眉を寄せる者もいる。
 だが、誰も場を去ろうとせず、目を逸らすこともできない。
 それは、たまらなく滑稽でありながら、ひどく悲哀であり、それでいて官能的な絵であり、痛烈なほどに癇客たちの心を騒がせるのだ。

 客の群のなかで、中央の見世物を見ていたディオメデスも、目を逸らすことはしなかった。だが、こんなところで意中の相手を見つけ、しかも、あまりにも過激であられもない姿を見せつけられたことに動揺はしていた。
 もしかして、という予想と覚悟はたしかにあったので、まさか、という気持ちより、やはり、という想いの方が強い。
(リィウス……どうしてこんなことに……)
 内心で問いかけて、すぐに答えは出た。
 ウリュクセスだ。彼が企んだことだろうが、そこに別の誰かの悪意をはっきりと感じる。
 過激な見世物に度肝どぎもを抜かれたものの、ディオメデスは、けっして呆然としてはない。すぐに、心の態勢をたてなおした。

 そして、ディオメデスと同じように、一瞬、驚愕に息を吐くことすら忘れていたナルキッソスも、すぐに我を取りもどした。
「……兄さん、すごい格好だね……」
 赤く塗っている唇を舐め、あらためて中央の兄の姿に目を向ける。
 隣のメロペなどは、痴呆のように呆けた顔をして、ぽかんと口を開けて、今にも涎を垂らしそうだ。いや、すでに垂らしていた。
「すごい……、あれは、リィウスか? リィウスがあんな真似をさせられているとは……」
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