燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「だ、駄目だ。おまえのような子どもが見てはいけない。は、はやく、ここから出ていくのだ!」 
「子ども?」
 一瞬、ナルキッソスの表情に、軽い驚愕がはしった。だが、すぐ毒々しい笑いに消えた。
「あはははははは!」 
 リィウスはやっとナルキッソスが普通の精神状態でないことに気づいた。
 だが、このときはまだ、リィウスの異常な姿や行為を見た衝撃で、ナルキッソスは錯乱を起こしているのだと思いこんでいた。
 何か言わねば、と口をどうにか開こうとした瞬間、脚下の熱い身体が揺れる。
「あっ、ああっ!」
 トュラクスが胴をひねったことで、激しい衝撃が股間に走り、下肢をおそった強烈な感覚は、そのまま背骨をいかづちのように貫通する。
「ううっ! あー、ああっ!」
 リィウスは、自制できず、ナルキッソスの前でのけぞった。一瞬、理性は消えた。
「あ……ああ……!」
 ウリュクセスの手が動き、リィウスの前を封じていた絹紐が、かすかなきぬずれの音をたてて、床に落ちた。 
 恥辱のきわみのなかで、リィウスは絶頂をきわめたのだ。
「うう……」
 蛇のように床にのたうつ薄紫色の湿った紐を見て、今やすぐ近くに立っていたナルキッソスがまた笑った。
「あはははははは! 兄さん、なんて様なんだろう。あんな……いつも上品でお綺麗で、誇りたかい兄さんが、こんな……、こんな姿をさらして、男の背中で自分で腰をゆらして……あはははははは!」
 全身を貫いた苦痛に近い悦楽の波のなかで、まだリィウスはナルキッソスが何を言っているか理解できなかった。
 ぐったりと疲れた身体をもてあまし、ただぼんやりと、かつては弟だった人間を見ていた。意識は半ば薄れ、両手を頭上で縛り上げていられなかったら、倒れていたろう。だが、そのナルキッソスの声はしっかりと鼓膜に響いてくる。
「ふふふふふ……。亡くなった義父上ちちうえが今の兄さんをご覧になったら、さぞ嘆かれるだろうね」
「……ああ、い、言わないでくれ……」
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