燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 どうしてナルキッソスがそんなひどいことを言うのか。兄の堕落した淫らな姿が許せないのだろうか。
 けっして好きこのんでしているわけではないが、快楽に負けて不様ぶざまをさらしたのは事実だ。リィウスはあらためて身の内に沸いてくるとてつもない羞恥の痛みに身を切られる思いがした。
 だが、ナルキッソスは兄の悲痛な表情などおかまいなしで、背を反らして笑いころげている。
「ふふふふ。……ははははは。あはははは。伝統ある名家の若君が、なんて、なんていい格好なんだろう。お貴族様なんて、皆こんなものじゃないか。生まれながらの地位にふんぞりかえって、庶民を見下して、それで、この様じゃないか」
「ナルキッソス、な、なぜ……そんな」
 リィウスは涙でかすむ目を義弟に向けた。胸が本当に裂けてしまいそうだ。
 可愛かった弟が、まるで別の生き物になっていくようだ。
「兄さん、いい加減、認めたらどうなのさ? 兄さんは本当は淫らで好色なんだよ。生まれながらの淫乱なのさ。僕とおなじようにね。由緒ある貴族の嫡男も、僕のような売春婦の私生児とおなじ淫売なんだよ」
「な、何を言っているんだ?」
 リィウスは今の自分の置かれた状況も忘れて、ナルキッソスの意外な言葉に身をふるわせた。
「お、おまえは私生児などでは……、」
 ナルキッソスの生母は前の夫とのあいだにナルキッソスをもうけたことは父からは聞いているが。
 ふん、と鼻を鳴らすと、ナルキッソスは侮蔑を込めたエメラルドの瞳でリィウスを射抜いた。思わずリィウスが身をすくめるほどに、冷たい目だった。
「ねぇ、マルキア、昔のよしみで今夜は兄さんを僕にくれないかい? 今夜、僕、兄さんを抱きたいな」
 少し離れたところで二人のやりとりを見ていた女……エリニュス――彼女の本名はマルキアというらしいことをリィウスは知った――が、気にかける余裕など今はない。
 ナルキッソスの信じられない暴言に、リィウスは絶叫した。
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