燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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新しい世界 一

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 やがてディオメデスの用意した馬に彼とともに乗り、リィウスは朝の田舎道をゆるやかに駆けた。
 風が強く吹いてきて二人の髪をみだす。
「おまえは……ヒュアキントスのようだな。だから、西風が俺に嫉妬して吹きつけてくるのかもな」
 ディオメデスにしては詩的な台詞だ。ギリシャ神話の太陽神アポロンは美少年ヒュアキントスを寵愛した。だがヒュアキントスに懸想けそうしていた西風ゼピュロスは、ヒュアキントスが自分になびかないのを怒って、風を送りつけてアポロンの放った円盤をヒュアキントスにぶつける。その衝撃でヒュアキントスは死んでしまい、それを嘆いたアポロンは彼を水仙の花ヒュアキントスに変える。太陽に愛でられながらも、風に揺れるヒュアキントスには、そんな哀話がつきまとう。
「愚かなたわごとを……」
 かすかに笑う声が聞こえる。背後に否応なしに感じるディオメデスの体温がひどく熱く感じられる。かつてはこの熱をうとましく想い、なんとか逃れたいと願っていたのだが、今はそれほど不快にはならない。
(だが、好きというわけではない)
 自分自身に言い訳するようにリィウスは内心でつぶやいた。 
「……言っておいた方がいいが、アウルスはローマを去っていった」
「え?」
 意外なことを告げられ、リィウスはやや驚いてディオメデスを振りかえった。
「あいつは、もうローマには帰ってこない。……どこか異国へ行くらしい」
「どうしてだ?」
「あいつは……今回の暗殺に関わっていたらしい」
 誰の暗殺かは敢えて口にせず、リィウスも訊かない。
「あいつは、ずっと以前から今のこの世の中というものに反発を感じていたのだ。現在の政府や体制をくつがえしたいと望んでいたのだとさ。だから、おなじように不満を持つ連中と通じ合い、この日のことを企んでいたようだ」
「な、なぜ……? なぜ、アウルスがそんなことに加わるのだ。別に不自由ない身の上なのに」
 不思議に思って訊くと、ディオメデスは前方を向いたまま答えた。
「あいつは、奴隷の子どもなのだそうだ」
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