燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「え?」
 あまりに意外な話にリィウスは息を飲んだ。
「アウルスは父親が奴隷に手をつけて生まれた子だったそうだ。ちょうど同じ時期に正妻が生んだ赤子が、生まれたその日の夕方に亡くなったので、アウルスと取り替えたらしい」
 ナルキッソスとエペオスが取り替えられた事実が思い出される。
 なんという愚か者だったのだろう、自分は。リィウスはほぞを噛んだ。まったくそのことに気付かず、エペオスをナルキッソスだと信じこんで、命がけで守ろうとしていたのだ。
 だが……、もしあの話がすべて真実ならば、ナルキッソスは義弟ではなく、リィウスと血のつながった異母弟となり、エペオスもまた、もしかすればリィウスの異母兄弟であることも、あり得ないとは言えないのだ。
 そうならば、自分は腹違いの弟と浅ましい関係を持ってしまったことになる。罪深さに、振りそそぐ黄金きんの陽光が目に染みる。
 リィウスの煩悶に気づかないディオメデスは、話をつづけた。
「アウルスは、おもてむきは夫婦の正嫡の子として育てられたそうだ」
 そして、実母である奴隷女は、正妻によって殺された。アウルスの目の前でだ。
 父も止めようとはしなかったという。十二になったとき、生母と親しかった乳母が、そのことをこっそりと教えてくれたそうだ。そして、その日からアウルスの運命は変わっていく。
 自分でもうすうすは気づいていたのだが、はっきりと知ったとき、アウルスは正妻よりも父よりも、このローマという世界のすべてを恨み憎んだ。この華の帝都のゆがんだ秩序や体制にはげしい嫌悪を感じたのだ。
「俺はアウルスに言ったよ」
(おまえは、俺のことも憎んでいるのか?)
(ああ、おまえはローマの一部だ。だから、俺は本当はおまえが嫌いだ。メロペもリィウスも嫌いだ。おまえたちは、このローマの風や水に染まりぬいて、この汚れた世になんの疑いももたず、くだらん秩序や腐った道理に盲従している連中だ。それがいかにもろいものか、いつか見せてやると思いながら俺は生きてきた)
 そして彼は己の怒りと憎しみを、ローマの象徴である皇帝にぶつけた。
 現在の政府に不満をもつ若者たちとつながり、今日の凶行におよんだのだ。
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