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狂宴の果て 六
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「ジャハンよ、ラオはまだまだ頑なだ。おまえがこれで、ほぐしてやるがいい」
「はは」
ジャハンは受けとった象牙の張型を手にラオシンの、あおむけに突きだされた形の腰に近寄る。
「あ、ああ! よせ、来るな!」
「なぜだ、ラオはジャハンに以前にもほぐされて喜んでおったというではないか?」
アイジャルの言葉にラオシンは頭を振った。
「ち、ちがう、違います!」
苦しい体勢で必死に反論するラオシンの額を撫でてやりながら、アイジャルが薄い唇で笑みをつくり、過酷な言葉を吐きだす。
「ちがうのか? 余はラオがジャハンによって気持ち良さそうに情を放ったと聞いたぞ。娼館の卑しい娼婦や用心棒たちにもずいぶん可愛がられたとも聞いたぞ」
「う、嘘だ」
くっ、くっ、くっ、くっ――。かつての気弱な王子、母親の傀儡の弱王のすがたはどこにもない。細身のからだからは瘴気のような薄暗い炎がにじみ出てきそうだ。
「嘘なのか? ではラオがジャハンに脅されれ、失禁をして泣きべそをかいてしまったことも嘘なのかな?」
「ああ!」
この館でされたことはすべてアイジャルに筒抜けだったのだ。ラオシンはいたたまれず、項まで赤く染めて切なげに首を振った。
「ジャハン、おまえの言ったことは嘘だったのか?」
「とんでもございません! ラオシン様は、たしかに身共のまえでおもらしをして泣きじゃくられましたぞ。ぐひひひひ」
「女物の下着をつけて踊ったことも嘘だったのかな? 最初に聞いたときは余は信じられなかったが……」
「とんでもない。現に、今日だとて、あれほど見事に踊ってくれたではありませぬか?」
ラオシンは嗚咽が止められなくなった。
ねちねちとしたいたぶりの言葉に神経が擦り減らされていく。アイジャルやジャハンに嬲られることも死ぬほど辛いが、いっそう辛いのは、それをすべてサルドバに見られ、知られてしまうことだ。かつての親友であり、いまだに敵と切り捨てることのできないサルドバの存在は、ラオシンの廉恥の心をさらに傷つけ、たまらない恥ずかしさをもたらす。獣に裸身を見られてもどうとも思わなくとも、人間に見られるのが恥ずかしいと思うのとおなじだろう。サルドバの視線は今のラオシンにとって一番の脅威だった。
「ジャハン、余が胸を揉んでやるゆえ、おまえはそこを可愛がってやるがよい」
「はは」
香油をしたたらせた道具が、ラオシンの蕾にあてがわれる。
「ああ、よせ、よせ! ……あああ」
しばらくそこでなにかを確かめるように先端が動いたかと思うと、かなりの力で押し入ってくる。
「はうっ」
「ごらんくだされ、陛下」
〝陛下〟という言葉は低くしながらジャハンがひからびた顔を赤く染めて得意げに言う。
「殿下は喜んでおりますぞ。肌が熱くなり、唇がゆるんでおります。楽しんでいる証しでございます」
「あ……ああ」
「とんだ淫乱ですな。先のイブラヒル陛下はこの君を目にかけ寵愛されておりましが、なぁに、本性はこのような淫らな陰間でございます。ほれ、ほれ、上も下も涎を垂らして」
「あっ、ああ……」
ジャハンに下肢を責められ、アイジャルに胸をもまれ、片足はサルドバの手によって大きく広げられ、ラオシンは魂が消えるぎりぎりまで追いつめられていく。発狂しないのが不思議なぐらいだった。
ちりん、ちりん、とラオシンの乱れる心を代弁するかのように金の鈴がゆれ、客たちをたまらなくさせる。なかには人目も忘れてみずからの身体を刺激している者までいる。先ほどからかおる香に、どうやら性欲を高揚させる麻薬のようなものが混じっていたらしい。
「ど、どうして……ああ!」
「ラオ、覚えているか?」
朦朧としてきているラオシンの耳にアイジャルが囁いた。
「かつて父上ご存命のころ、なにかの宴の折りに、異国の商人から七色の宝石を散りばめた見事な武衣を献上されたことがあったな。商人は王太子である余にと捧げたが、父上は酔って笑いながら〝将来の我が国最高の将へ〟と言って余の目のまえでラオにその武衣を与えてしまった。あのあと母上は悔し泣きされていた」
甘い恨みをこめた囁きは、今のラオシンにとっては被虐の欲望をひきずりだす媚薬だった。
「だが、今はどうじゃ? 最高の将になって七色の宝石の武衣をまとうはずが、女ものの下着や衣をまとって男たちのまえで媚を売るように尻をふって。浅ましい。父上がご覧になったらどう思われたろう? あの世の父上に見せてやりたい」
涕泣するラオシンをアイジャルは恍惚となって見ている。
だが、ひとしきり泣きじゃくったラオシンの息が落ち着いた瞬間をみはからって、あえぐ唇におのれの唇をかさね、むさぼるようにラオシンの身も心も吸いとろうとする。
そばで見ているサルドバは奇妙な表情で接吻しあう二人を見ていた。
ラオシンが魂を踏みつぶされるほどの苦痛のはてに、被虐に悦びをあらわす身体になっていくなか、アイジャルもまた内気なみずからの性根をうちこわすように、残酷で強靭な性分を発揮し、加虐に快を得る人間になってきている。二人ともほんの一月ほど前にはどちらも想像できなかった姿や表情をさらしている。
「ああ……ラオ、可愛い……。ラオがこんなに可愛かったとは……」
「……や、やめ」
「はは」
ジャハンは受けとった象牙の張型を手にラオシンの、あおむけに突きだされた形の腰に近寄る。
「あ、ああ! よせ、来るな!」
「なぜだ、ラオはジャハンに以前にもほぐされて喜んでおったというではないか?」
アイジャルの言葉にラオシンは頭を振った。
「ち、ちがう、違います!」
苦しい体勢で必死に反論するラオシンの額を撫でてやりながら、アイジャルが薄い唇で笑みをつくり、過酷な言葉を吐きだす。
「ちがうのか? 余はラオがジャハンによって気持ち良さそうに情を放ったと聞いたぞ。娼館の卑しい娼婦や用心棒たちにもずいぶん可愛がられたとも聞いたぞ」
「う、嘘だ」
くっ、くっ、くっ、くっ――。かつての気弱な王子、母親の傀儡の弱王のすがたはどこにもない。細身のからだからは瘴気のような薄暗い炎がにじみ出てきそうだ。
「嘘なのか? ではラオがジャハンに脅されれ、失禁をして泣きべそをかいてしまったことも嘘なのかな?」
「ああ!」
この館でされたことはすべてアイジャルに筒抜けだったのだ。ラオシンはいたたまれず、項まで赤く染めて切なげに首を振った。
「ジャハン、おまえの言ったことは嘘だったのか?」
「とんでもございません! ラオシン様は、たしかに身共のまえでおもらしをして泣きじゃくられましたぞ。ぐひひひひ」
「女物の下着をつけて踊ったことも嘘だったのかな? 最初に聞いたときは余は信じられなかったが……」
「とんでもない。現に、今日だとて、あれほど見事に踊ってくれたではありませぬか?」
ラオシンは嗚咽が止められなくなった。
ねちねちとしたいたぶりの言葉に神経が擦り減らされていく。アイジャルやジャハンに嬲られることも死ぬほど辛いが、いっそう辛いのは、それをすべてサルドバに見られ、知られてしまうことだ。かつての親友であり、いまだに敵と切り捨てることのできないサルドバの存在は、ラオシンの廉恥の心をさらに傷つけ、たまらない恥ずかしさをもたらす。獣に裸身を見られてもどうとも思わなくとも、人間に見られるのが恥ずかしいと思うのとおなじだろう。サルドバの視線は今のラオシンにとって一番の脅威だった。
「ジャハン、余が胸を揉んでやるゆえ、おまえはそこを可愛がってやるがよい」
「はは」
香油をしたたらせた道具が、ラオシンの蕾にあてがわれる。
「ああ、よせ、よせ! ……あああ」
しばらくそこでなにかを確かめるように先端が動いたかと思うと、かなりの力で押し入ってくる。
「はうっ」
「ごらんくだされ、陛下」
〝陛下〟という言葉は低くしながらジャハンがひからびた顔を赤く染めて得意げに言う。
「殿下は喜んでおりますぞ。肌が熱くなり、唇がゆるんでおります。楽しんでいる証しでございます」
「あ……ああ」
「とんだ淫乱ですな。先のイブラヒル陛下はこの君を目にかけ寵愛されておりましが、なぁに、本性はこのような淫らな陰間でございます。ほれ、ほれ、上も下も涎を垂らして」
「あっ、ああ……」
ジャハンに下肢を責められ、アイジャルに胸をもまれ、片足はサルドバの手によって大きく広げられ、ラオシンは魂が消えるぎりぎりまで追いつめられていく。発狂しないのが不思議なぐらいだった。
ちりん、ちりん、とラオシンの乱れる心を代弁するかのように金の鈴がゆれ、客たちをたまらなくさせる。なかには人目も忘れてみずからの身体を刺激している者までいる。先ほどからかおる香に、どうやら性欲を高揚させる麻薬のようなものが混じっていたらしい。
「ど、どうして……ああ!」
「ラオ、覚えているか?」
朦朧としてきているラオシンの耳にアイジャルが囁いた。
「かつて父上ご存命のころ、なにかの宴の折りに、異国の商人から七色の宝石を散りばめた見事な武衣を献上されたことがあったな。商人は王太子である余にと捧げたが、父上は酔って笑いながら〝将来の我が国最高の将へ〟と言って余の目のまえでラオにその武衣を与えてしまった。あのあと母上は悔し泣きされていた」
甘い恨みをこめた囁きは、今のラオシンにとっては被虐の欲望をひきずりだす媚薬だった。
「だが、今はどうじゃ? 最高の将になって七色の宝石の武衣をまとうはずが、女ものの下着や衣をまとって男たちのまえで媚を売るように尻をふって。浅ましい。父上がご覧になったらどう思われたろう? あの世の父上に見せてやりたい」
涕泣するラオシンをアイジャルは恍惚となって見ている。
だが、ひとしきり泣きじゃくったラオシンの息が落ち着いた瞬間をみはからって、あえぐ唇におのれの唇をかさね、むさぼるようにラオシンの身も心も吸いとろうとする。
そばで見ているサルドバは奇妙な表情で接吻しあう二人を見ていた。
ラオシンが魂を踏みつぶされるほどの苦痛のはてに、被虐に悦びをあらわす身体になっていくなか、アイジャルもまた内気なみずからの性根をうちこわすように、残酷で強靭な性分を発揮し、加虐に快を得る人間になってきている。二人ともほんの一月ほど前にはどちらも想像できなかった姿や表情をさらしている。
「ああ……ラオ、可愛い……。ラオがこんなに可愛かったとは……」
「……や、やめ」
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