昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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牡丹の闇 一

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「はぁっ……」
 三脚の大内行灯の放つほのかな明かりが、薄紅の闇をつくりだす。
 その薄紅の闇のなか、敷かれてある布団がなんとも淫靡に見える。
 さらに望を圧倒したのは、高級そうな敷布団の上でうずくまっているのが、闇に慣れてきた目に、仁だと認識したときだ。
「あ……、ああっ、も、もう、勇、もう止めてくれ……」
 望はまたも息を呑んだ。
 仁は背の上で後ろ手で寝巻の紐で縛られていた。脚を折っているため、やや腰があがっている。白い寝巻は乱れて、太腿のあたりが、ぼんやりと行灯の明かりを弾いている。
 今自分が見ているものは、うつつの出来事なのだろうか。望は胸をおさえた。
 行灯に描かれている牡丹が、闇に真紅の花を開かせ、いっそう辺りを幻想的に見せる。すべてが夢幻ゆめまぼろしなのだと思えてきそうだ。
 だが、
「もっと尻をあげろ」
 閨に、厳しい声が、低く、だが確かにそう響き、これが真実なのだと望に知らせる。
「も、もぉ、やめてくれ、勇……」
「駄目だ」
 望は二人の短いやりとりに背がふるえた。
 仁の哀れで不様な姿を見下ろして、勇叔父は笑っているではないか。
 夕餉の席ではごく親しげにしていた二人が、今はなんということだろう。
 勇叔父と仁は従兄のあいだがらで、幼いころからの親友だと聞いている。二人はつねに仲睦まじげだった。
 外国から手紙をくれるときも、二人の手紙は同封筒でともに連盟で送られてくることも多く、同封されている写真でも二人はいつも親しげに並んで映っていた。二人はともにいられることを、心から楽しんでいるようにしか見えなかったはず。
 それが全て嘘だったのだろうか。
 勇は、仁を憎んでいるのだろうか。
「はぁ……。ああっ、もう無理だ……、ぬ、抜いてくれ……」
 仁の哀切な声が望の鼓膜に錐のようにねじこんでくる。
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