昭和幻想鬼譚

文月 沙織

文字の大きさ
49 / 190

遥かな闇から 三

しおりを挟む
 望はむかし、都によく寝物語に昔話を聞かせてもらっていたときの心持ちになって、次の言葉を待った。
「……大陸でのお勤めの期間が終わるころ、ああいう事件を起こしてしまったのだそうで」
 二人は、心中しようとしたというのだ。
 これはすべて、望の父である忠から聞いた話で、忠もまた勇や任地の仁の同僚から聞いた話なので、どこまでが事実かはわからない、と都は前置きして語った。

 いつものように仁様とお相手の人はお部屋に入られたようですわ。
 その日は約束の時間が過ぎても二人とも出てこなかったようですが、そういうことはままあることで――あとから延長した時間分を払ってもらえばすむことなので、店の人間はだれも不審にも思わず、室をおとずれるような野暮な真似もしなかったのだそうで。
 翌日の朝になると、さすがに店主も心配になったそうです。今まで仁様がこれほど長く居続けるなどということは、なかったことですし、いかにも几帳面そうなあのお客が、翌日も仕事があるだろうに、娼家に入り浸るなどということがおかしい。
 そう思って、やっとこさ室をおとずれ、声をかけてみましたが、返事がない。いよいよ店主は不審に思い、恐る恐る扉をあけたそうです。
 屏風の向こう、壁際の寝台のうえでは二人がぐったりとして横たわっております。
 非礼とは思いつつ、近づいて声をかけると……、
 店主は悲鳴をあげたそうですわ。
 仁様の方は血の気の引いたお顔でしずかに仰向けになって横たわっておりますが、隣で寝ている女の方は、口から血を吐いて……すでに死相が出ていたそうです。かなり苦しんだらしく、美しかった顔がひどくゆがんでいたとか。
 ……奇妙なことに、仁様は上着こそ脱いで屏風にかけていたものの、そのほかは着衣のままで軍靴も履いたままだったそうですが、女の方は全裸だったとか。
 仁様は幸い意識を失っていただけで、呼ばれた医者がいろいろ手を尽くすと、どうにか息を吹き返されたのですが、女の方はすでにとっくに手遅れでした。
 仁様は、そのあと店主の連絡を受け、飛んできた勇様や同僚の方にいろいろ訊かれても、覚えていないの一点張りだったそうでございます。
 おそらくは、相手の女性による無理心中だったのではないかと。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

身体検査その後

RIKUTO
BL
「身体検査」のその後、結果が公開された。彼はどう感じたのか?

処理中です...