昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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美しいとき 六

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 室に戻ってから襖をきっちりと閉めた。
 昨今のならいにしたがって、望の部屋は畳敷きの和室ではあるが、寝台があり、勉強机と椅子が壁際にある。
 その横には本棚があり、望の好きな海外ものの翻訳小説がならんでいる。少し背伸びをして、ポーの『黒猫』の英語の原書も置いてはいるが、読めていない。本棚の一番下のところには、香寺の影響で少しだけ読んだ『源氏物語』の上巻がある。少年の好奇心や興味はつきることなく、あらゆるものを知りたがり、少し飽きるとまた別のものに手を出したりしてしまう。
 今、望の心を一番占めているのは、読書や勉強よりも、ひたすら欲望の追求だろう。
 机の上に桐箱を置き、そっと開けてみる。
 布をとりさり、中身を手にとる。
 男性器をかたどった象牙の道具は、見るからに淫靡だ。一人でこうして眺めていると、今更ながら、無性に恥ずかしくなってきた。
 一人前の大人の男になったつもりでも、やはりそこはまだ少年で、心が揺れるのだ。こんなことをしている自分がひどい悪人になってしまった気がする。
 とはいうものの、このころは十六なら大人に近い。男は十七、女は十五で法的に結婚が認められる時代である。
(僕はもう……男だ。もう、何も知らなかったころにはもどれない)
 いや、正確にはもっと幼いころから、祖父崇によって性的悪戯を強いられていたので、かならずしも無垢で無知だったとはいえない。
(もしかしたら、すでに……もう、ずっと昔から僕の身体は汚れていたのかもしれない)
 十代の少年にあるまじき自嘲まじりの皮肉な笑みを、望はこぼしていた。
 手に持っている道具を凝視する。
(これで……香寺先生を悦ばせてやりたい。最近の先生は……ぼくに抱かれるようになってからの先生は、以前よりもずっと綺麗になった気がするな)
 それは決して望の自惚れではない。それが証拠に、若い女中や家に招かれる贔屓の芸者などが香寺を見る目は以前よりも熱っぽい。
 女たちだけではなく、ほかの男の使用人や出入りの業者たちのなかにも、香寺とすれちがうときは妙にそわそわしたり、見てはいけないものを見たように顔を伏せたりしている者もいる。彼らは後で、男に気を引かれた自分に気付き、あわてるだろう。
 望はほくそ笑んでいた。
(僕が、先生を美しく変えたのだ。僕の調教によって、先生の美は花開きつつあるのだ)
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