昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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美しいとき 八

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「の、望君……! だ、駄目だ……!」
 身をよじり、望の腕を振りはらおうとはするが、抵抗は最初からはかないものだった。もはや諦めていることは明白だった。
 望はずるい笑みを浮かべる。
「そんなこと言って、先生、こっちは……ほら?」
 いかにもありがちな台詞を口にして、望は年上の男を力いっぱい抱きしめる。香寺のシャツからは、どこか懐かしい香りがした。布越しの身体はあたたかくやわらかい。
 望は女を抱いたことはないが、香寺の身体は女よりも柔弱なのではないかと思える。
「ねぇ、先生、僕、今日は雨沼さんのお宅でいいものをもらったのですよ」
「……?」
「ふふふふ。見せてあげますよ」
 身体をはなすと、机の際に寄せておいた桐箱を手前に引き寄せる。
 香寺の表情はこわばり、目にはかすかに怯えが走った。おそらく、箱の中身がなにか禍々しいものであることに気付いたのだろう。
「そ、それは……?」
「ふふふ。見たいですか?」
 香寺は椅子の上でかすかに退く。顔は凍り付いている。
 そんな仕草や表情が、望の狩猟本能を刺激することに、香寺はなぜ気づかないのか。
 望は自分よりも幼いように見える家庭教師に、あらたに激しい欲望を燃やした。
「先生がとても喜ぶものですよ。きっと気に入ってくださると思うな」
 二人がこういう関係になってからも、望は人前では香寺に丁寧な言葉づかいで接している。だが二人きりのときにも丁寧な言葉を使うときは、含むものがあるときだった。
「開けますね。ほら」
 蓋をあけ、繻子の布を取る。
 隠されていたものがあらわになった途端、香寺の顔からは血の気が消えた。
「どうですか? 立派なものでしょう?」
 手に取り、香寺の鼻先に突き出すと、香寺は白蝋のように真っ白にしていた顔を、こんどは炎のように赤くした。
「気に入ってくれましたか、雨沼さんからの贈り物は?」
「し、しまいたまえ! 今は勉強の時間だ」
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