昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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泥色の夏 五

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「どうしたのですか? そんな顔をして? 帝国軍人が、僕のような子どもを恐れるのですか?」
 今更そんなことを言う望を、仁は絶望と悲しみのこもった目で見つめる。すこしでも良心がのこっている人間なら胸が痛まないわけがない。だが、今の望にはもはや良心も良識もない。
 昼過ぎからずっと愛欲の限りを尽くして身体をぶつけあっていた二人である。今は湯あみをして、二人ともさっぱりしたところだが、浴衣の胸の合わせ目に見える、ほんのり上気した仁の肌に、ついさきほどの狂おしい時間を思い出して、望はまたたかぶってくる。
「晩御飯のまえに少し散歩しましょう。夕暮れの風が気持ち良いですよ」
 提案しているようであって、それは命令であった。
「出るまえに、これを締めてあげますよ」
 望が差しだしたのは、望が海水浴につかう赤い下帯である。
 仁が困惑と動揺を見せた。
「い、いや、いい……」
 湯上りの仁は、黒藍縞の浴衣をはおっただけで、下着をつけていないことは知っていた。
「駄目ですよ。そのままでは。僕が、これを締めてあげますよ」
 仁の顔には羞恥と屈辱がいりまじっている。
 それでいて、抗えない悔しさ。被虐を待つ身の悲しさと、かすかに……愉悦もなくはないことを望は見抜いていた。
 仁の心身は、加えられる仕打ちに反応して、快を得るようになってきたのだ。
 自分が仁を仕込んだのだ。そう思うと望はたまらなく愉快な気持ちになってくる。
「さぁ、裾を上げてください。僕が締めてあげますよ」
「い、いい」
「駄目です。さ、裾をあげて」
 黙りこんでしまった仁を笑いながら、望は内気な少女に蛇を見せつけるように、赤い紐布を見せつけた。
「ほら、早くしてください。夜になってしまいますよ」
 再度言うと、仁は唇を噛んだ。
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