艶夢百景

文月 沙織

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闇夜の夢 五

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 これを渡せば事がおさまるなら、とも思う。もともと貴族、とくに光経のような中流以下の貴族にとっては、刀は衣装の一部でしかない。
「欲しければやろう」
「そうか。では、ありがたく頂戴しようか」
 頭目らしき男はにやにやと不気味な笑いを浮かべ、光経から刀を受け取った。相手の毛深い手が目に入り、光経の背に悪寒が走った。
「これは、よく切れるのか?」
「さ……、それは」
 使ったことがないからわからない、とはさすがに言えなかった。
 刀が男の手に渡り、これで目の前から彼らが消えてくれると光経がかすかに安堵した瞬間——。

 薄闇に深紅の火花が散った。
 つぎに悲鳴が轟いた。
 田津の血が飛び散り、断末魔の悲鳴が響いたのだ。
 光経の刀で男は田津を文字どおり斬り捨てたのだ。
 血を吸った刀が月光ににぶく光る。気のせいか、田津の血を吸ったせいか、銀光は妖しいほどに美しく映える。
 光経は言葉もなく立ちつくしていた。殺された田津を憐れむより、恐ろしさで頭がいっぱいだった。
「おお。切れ味は悪くないな」
 男たちの笑い声が響く。
「満足したろう……、さぁ、もう行ってくれ」
「ふむ。儂は満足したが。こいつらがなぁ……。こいつらにも何かやってくれないか?」
 光経はぞっとした。これ以上渡せるものといえば馬ぐらいか。だが、馬がなくてはこの先困る。いくばくかの路銀を与えるしかないか。ただでさえ乏しい路銀を払うのは辛いが、命には代えられない。
「金は……少ししかないが……」
 といっても光経が持つ銅貨などは、地方では通用しないこともある。田舎では貨幣を使うよりも物々交換のほうが多く、おもに米や絹などで売買はおこなわれた。金や銀、玉などは交換品として持ち運び便利だが、それも断られるここともある。
「ふむ。金も欲しいが、そうだな、やはり極上の玉が欲しいものだな」
「玉などは持っておらぬぞ」
「ふふふふ。あるではないか、ここに。それもとびきり上等のものが」
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