艶夢百景

文月 沙織

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闇夜の夢 八

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 大男が近づいてくると、獣の匂いがしてきそうだった。光経はぞっとした。
「く、くるな!」
「威勢がいいな。さすがお貴族様だ」
「儂たちは、お前を色宿に売ることに決めたのだ。そのために、まずどれぐらい値がつくか確かめてやろう。さぁ、こっちへ来い。素直になれば、痛い思いをせんですむぞ」
 光経は凍りつきそうになった。
 彼らのかもしだす獣臭いにおいに気が遠くなりそうだ。恐ろしい悪夢の世界に引きずりこまれた気がする。
「へへへへ……。まずはどれぐらいの値打ちがするか調べてみるとするか。さぁ、そんな隅っこで怯えてないで、こっちへ来い」
 手招きされて、光経はますます怖気上がった。
「た、頼む。やめてくれ……。こ、こないでくれ!」
 情けないが、女のように、いや、子どものように怯えてか細い声しかだせない。
 すでに刀は奪われており、都を離れて地位も下僕もうしなった今の光経が、屈強で残忍そうな男三人とたたかうなぞとても無理な話である。歌や書、香などの風雅の道をたしなむことしかできない文弱の貴公子でしかない光経である。
「ほれ、手を焼かすな」
「ああっ!」
 腕を強引にひかれ、大男に引き寄せられた。
 他の二人の手が伸びてきて、衣をはぎとろうとする。
「破くなよ。売りものにならなくなるからな」
「よせ! やめろ! やめてくれ!」
「へへへへ。ああ、いい匂いがする」
「香が焚き染められているのだな。ああ、これがお貴族様の匂いか。都の匂いなのじゃな」
 手下の男が面白そうに光経から剥ぎ取った狩衣に顔をうずめた。おぼろになりそうな意識のなかで、光経は彼に右耳がないことに初めてぼんやりと気づいた。
 帯も下袴もうばわれていく。貴族の羞恥心は庶民のものとはちがっているが、それでもすべてをうばわれ、野卑な男たちの油ぎったような欲望の目にさらされると、辛い羞恥ゆえの痛みが生まれ、たまらない屈辱が胸にこみあげてくる。
「どれ、じっくりと見させてもらうか。黒吉、灯りを持ってこい」
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