紅蓮の島にて、永久の夢

文月 沙織

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影花満開 十一

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 ハサピスも声を合わせて、アレクサンダーの太腿をつかむ手を動かしつづけた。
「おい、目を閉じるなよ。しっかり見ろ、ほら、面白いぜ、卵がちらちら見えてるぞ」
 ヴルブナの言葉に、ハサピスがげらげらと笑う。
 それでも目を開けないアレクサンダーの態度に、それならば、とさらにいっそう二人がかりで脚をひろげさせる。
「おっ、出そうだ。出るか?」
 ハサピスがおもしろそうに言うと、ヴルブナは指で押しもどす。
「あっ……!」
 必死に無視を決めこんでいたアレクサンダーが、声をあげてしまったことがヴルブナの機嫌を良くした。
「出しちまったら寂しいだろう。これはもうアレクサンダー=フォン=モール少佐のものだ。ずっと持っているといい」
「それはいい。お貴族様も、すっかりこの卵が気に入ったみたいだしな」
 哄笑の嵐がつづく。
「はい、開きぃー」
「はい、閉じぃー」
 二人は声を合わせて手を動かしつづけた。
「ああ、以前のことを考えたら夢のようだな。まさか俺が、田舎の百姓の三男で、しがない中尉のパウル=ヴルブナが、アレクサンダー=フォン=モール少佐の……、こんな、こんなものすごい格好を拝めるなんてな。はい、開きぃー」
「も、もう、よせ!」
 抗えば相手を喜ばせるだけだとわかっていても、アレクサンダーは言わずにいられなかった。やたら正式名で呼ばれることも、少佐と職位で呼ばれることも、アレクサンダーの自我を刺激し、いっそうの屈辱感を引きだすのだ。
 すべてを失っても、アレクサンダーは、アレクサンダー=フォン=モールであり、少佐であり、伯爵であるのだ。そこを突かれることで、いっそう自尊心が軋む。恥辱もまさる。ヴルブナもそれを狙って、あえて名や身分を口にするのだろう。
「まだまだ。もう少し遊びましょうぜ。ほら、見てください少佐、卵が濡れて蜜をしたたらせてますよ。少佐も本当は楽しいんでしょう?」
 ヴルブナは下品な声で笑った。
「こんなことされて感じているとは、本当にあっぱれなぐらいの好き者だな、この伯爵様は」
 ハサピスが尻馬に乗るように嘲る。
「館での日々は、けっこうあんたに合っていたということかな? ああ、本当に可愛い格好だ。それに、なんて綺麗な花だ。ほら見てくださいよ、少佐。あんたのいけない花が満開だぜ」
 ヴルブナの口調も目つきも普通ではなくなっていた。
「ああ……」 
「開きぃー」
 ハサピスも声を合わせて、アレクサンダーの太腿をつかむ手を動かしつづけた。
「おい、目を閉じるなよ。しっかり見ろ、ほら、面白いぜ、卵が見えてるぞ」
 ヴルブナの指摘に、ハサピスがげらげらと笑う。
「すさまじい格好だな。傑作だぜ。ああ、卵が出そうだ」
 ハサピスが言うと、ヴルブナが指で押しもどす。
「あっ……!」
「ほら、また卵が出てきた。べたべたに濡れているぜ」
 鏡に映る、花肉からのぞく蜜漬けの卵の先端を指さしハサピスが笑う。
「くぅー……」 アレクサンダーはほとんど発狂寸前だった。
 いっそ狂えたら、と願ったほどだ。狂うか死ぬか、それが今のアレクサンダーの最大の願いだった。
「どうですか、少佐? 卵の味は?」
 哄笑の嵐がつづく。
「はい、開きぃー」
「はい、閉じぃー」
 二人は声を合わせて手を動かしつづけた。
 おぞましい悪辣な遊戯はつづく。 

 男たちの幼稚で狂的なほどに嗜虐的な遊びは飽くことなくつづけられ、アレクサンダーが屈辱のあまり気をうしなうまで終わらなかった。
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