波乱万丈って言葉、私のためにある?

宵森みなと

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第2話

港町の石畳を抜けた先にある小さなカフェは、昼下がりの陽射しを受け、ガラス越しに柔らかな光が差し込んでいた。
その奥の席――マックレーンは、薄紅色のワンピースを着た若い女性と肩を寄せ合い、まるで恋人同士のように甘い空気をまとっていた。
テーブルの上では二人の手が絡み、低く笑い合う声が響く。

エリーナは、その光景を一目見て、昨日のような衝撃はなかった。
むしろ、ようやく決定的な場面に巡り合えたという安堵と、早くこの茶番に幕を下ろしたいという気持ちの方が勝っていた。

隣のアレク――いや、マイラが視線を向けてくる。
「エリーナ、どこの席に座ろうか?」
「……アレクに任せるわ」
わざと通る声でそう答えると、マックレーンの耳にも届いたらしい。

ふと顔を上げた彼は、エリーナの姿に目を見張った。
――いつもの地味な服装ではなく、青のシンプルなドレスが彼女の髪色と瞳を引き立て、笑顔はまるで光を放っているかのように輝いていた。
そして、その隣に立つ青年――男性から見ても息を呑むような美貌と気品を漂わせ、どこか守りたくなるような柔らかさまで兼ね備えていた。

マックレーンの恋人は、その視線の変化をすぐに察知した。
「マック? どうしたのよ」
問いかけに、彼はわずかに動揺しながら答える。
「……いや、あれ……エリーナ?」
「え……婚約者……?」
女性の瞳に警戒が宿る。視線の先には、噂通りの美しい青年と、確かに自分の知るエリーナの姿があった。

その瞬間、エリーナは、あえて今気付いたふりをして歩み寄った。
「あら、マックレーン様。こんな真昼間から、堂々とお相手とご一緒とは……ご婚約者のわたくしとしては、驚きを通り越して感心いたしますわ」
淡々と、しかし一言一句に棘を潜ませる。
「そんなにわたくしとの婚約がお嫌なら、解消いたしましょう」

マイラがすっと前に出る。
「君がエリーナの婚約者か。ずいぶんと、お盛んなようだな」
マックレーンが苛立ちを隠せない声で反論する。
「君は……何者だ。エリーナの新しい男か?」
「まあ、似たようなものだ。もっとも、もうすぐ“元”婚約者になるらしいがな。――そちらのお嬢さんと、末永くお幸せに」

皮肉を込めた口調に、マックレーンの顔が引きつる。
「エリーナ、本気で言っているのか?」
「ええ。本気ですわ。わたくしには、もっと素敵な方がいますもの」
その笑みは、マックレーンが今まで見たことのない、自信に満ちた笑顔だった。

マイラは軽く肩をすくめ、エリーナに向き直る。
「……こんな無粋な男がいる店は、君には似合わない。他に行こう」
「ええ、アレク。あの、この間行ったお店に行きたいわ」
「では――お姫様、参りましょうか」

スマートにエスコートされ、二人はカフェを後にした。

外へ出ると、マイラがふと笑う。
「エリーナ、せっかくだからデートでもするか?」
「えっ……いいの!?」
「追加料金は頂くけどな」
「構わないわ。今日はぱーっと買い物したい気分だもの」

そうして二人は港町の石畳を歩き、宝飾店や香水店を巡った。
マイラはさりげなく扉を開け、試着室のカーテンを引き、歩く速度までエリーナに合わせる。
店員に勧められた帽子を被せてくれたり、彼女が気に入ったドレスを見て「似合うな」と素直に褒めたり――その一つ一つの仕草が自然で、エリーナの頬は幾度も熱を帯びた。

夕方、港に面したテラスで海を眺めながらのティータイム。
潮風に髪を揺らし、マイラが微笑む。
「……どうだ、少しは気が晴れたか?」
「ええ。今日は忘れられない一日になりそう」
「なら、依頼は大成功だな」

その言葉に、エリーナは胸の奥が温かくなるのを感じた。
――見返すためだけのはずの依頼が、いつの間にか、心の奥に別の色を落としていた。

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