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第6話
潮風が頬を撫で、波間から白い飛沫が立ち上る。
マイラはシークエンス号の甲板に立ち、遠ざかっていく港を見送っていた。
隣には、今回の依頼主であり、これから“父”と呼ぶことになるデュパール子爵――サイモンの姿があった。二人は港で落ち合い、そのまま船へ乗り込んだのだ。
船室へ案内され、荷物を置こうとしたマイラは、ベッドの上に置かれた大きなトランクに目を留める。
蓋を開けると、中には見事な仕立てのドレスが数着収められていた。
「これは……?」
「妻がいつか娘ができたら、と思って用意していたんだろう。君が着てくれたら……きっと妻も喜ぶ」
胸が締め付けられる。こみ上げる涙を必死に堪え、マイラは深く頭を下げた。
「……お父様、ありがとうございます」
その言葉に、サイモンの瞳も潤む。彼は、もし妻が生きていたなら、この娘と共に過ごせた未来を想像してしまうのだった。
やがて二人は船室のテーブルに向かい、今回の旅程について話し合った。
目的地は隣国エレンス王国、マリンの生家であるマックエル伯爵家。
まずは滞在先のホテルへ入り、迎えの馬車が来たら屋敷を訪ねるという。
「会っていただくのは、マリンの母上、エメリカ様だ。……余命が長くないと聞いている」
そして、それまでの時間は“父娘”として過ごし、自然な関係を作っておきたいと告げられた。
船旅のあいだ、マイラはサイモンを父と呼び、食事も散歩も肩を並べて共に過ごした。
互いの呼吸も徐々に合い、親子らしいやりとりが自然にできるようになっていく。
港に着くと、二人はホテルへ向かった。
用意された部屋には、マリンが生前マイラのために選んだというドレスが掛けられている。
柔らかなクリーム色に淡い金糸の刺繍が施された上品な一着――袖を通すと、不思議と胸が温かくなる。
化粧は、できるだけマリンに寄せるよう意識して仕上げた。
ノックの音と共に扉を開けたサイモンは、一瞬言葉を失った。
「……マリンに、そっくりだ……。本当に綺麗だよ」
その声には驚きと感慨が入り混じっていた。
「お父様……私、おばあ様にお会いして、がっかりされないかしら」
「そんなことはない。……これほど素敵な娘を、胸を張って紹介できるんだからな」
二人は腕を組み、迎えの馬車へと乗り込む。
窓の外には、エレンス王国の落ち着いた街並みと、冬を告げる淡い陽光が広がっていた。
やがてマックエル伯爵家に到着し、重厚な扉をくぐると、応接間には三人の人物が待っていた。
マリンの兄で現当主のライザル伯爵、その妻イザベル夫人、そしてマリンの妹でアジェルダ侯爵夫人のシーラ。
サイモンが一歩前に出る。
「お久しぶりです、ライザル様、イザベル様、シーラ様。……今日は娘のマイラを連れて、義母上のお見舞いに参りました。――マイラ、ご挨拶を」
マイラは深く一礼し、静かに口を開いた。
「お初にお目にかかります。マリンお母様の娘、マイラと申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします」
その瞬間、三人の視線が一斉にマイラに注がれる。
表情には驚きが色濃く浮かんでいた。
顔立ちや雰囲気だけでなく、仕草や視線の動きまでマリンにそっくりだったからだ。
手紙で伝えられていた容姿の情報と目の前の姿が重なり、まるで本物の娘が現れたかのような錯覚を覚える。
「……本当に、マリンの娘ではないのか?」
ライザルが思わず口にした。
マイラは微笑を浮かべ、ゆっくりと首を振る。
「残念ながら、お母様とお父様とは血の繋がりはございません。ですが……お母様のことは、第二の母として深く慕っておりました。そのせいか、似てしまったのかもしれません」
ライザルは短く息を吐き、口元にわずかな笑みを浮かべた。
「……そうか。君なら母もきっと喜ぶだろう。――さあ、会いに行こう」
「はい」
マイラは胸の奥でそっと息を整え、義理の祖母となる人の待つ部屋へと歩みを進めた。
マイラはシークエンス号の甲板に立ち、遠ざかっていく港を見送っていた。
隣には、今回の依頼主であり、これから“父”と呼ぶことになるデュパール子爵――サイモンの姿があった。二人は港で落ち合い、そのまま船へ乗り込んだのだ。
船室へ案内され、荷物を置こうとしたマイラは、ベッドの上に置かれた大きなトランクに目を留める。
蓋を開けると、中には見事な仕立てのドレスが数着収められていた。
「これは……?」
「妻がいつか娘ができたら、と思って用意していたんだろう。君が着てくれたら……きっと妻も喜ぶ」
胸が締め付けられる。こみ上げる涙を必死に堪え、マイラは深く頭を下げた。
「……お父様、ありがとうございます」
その言葉に、サイモンの瞳も潤む。彼は、もし妻が生きていたなら、この娘と共に過ごせた未来を想像してしまうのだった。
やがて二人は船室のテーブルに向かい、今回の旅程について話し合った。
目的地は隣国エレンス王国、マリンの生家であるマックエル伯爵家。
まずは滞在先のホテルへ入り、迎えの馬車が来たら屋敷を訪ねるという。
「会っていただくのは、マリンの母上、エメリカ様だ。……余命が長くないと聞いている」
そして、それまでの時間は“父娘”として過ごし、自然な関係を作っておきたいと告げられた。
船旅のあいだ、マイラはサイモンを父と呼び、食事も散歩も肩を並べて共に過ごした。
互いの呼吸も徐々に合い、親子らしいやりとりが自然にできるようになっていく。
港に着くと、二人はホテルへ向かった。
用意された部屋には、マリンが生前マイラのために選んだというドレスが掛けられている。
柔らかなクリーム色に淡い金糸の刺繍が施された上品な一着――袖を通すと、不思議と胸が温かくなる。
化粧は、できるだけマリンに寄せるよう意識して仕上げた。
ノックの音と共に扉を開けたサイモンは、一瞬言葉を失った。
「……マリンに、そっくりだ……。本当に綺麗だよ」
その声には驚きと感慨が入り混じっていた。
「お父様……私、おばあ様にお会いして、がっかりされないかしら」
「そんなことはない。……これほど素敵な娘を、胸を張って紹介できるんだからな」
二人は腕を組み、迎えの馬車へと乗り込む。
窓の外には、エレンス王国の落ち着いた街並みと、冬を告げる淡い陽光が広がっていた。
やがてマックエル伯爵家に到着し、重厚な扉をくぐると、応接間には三人の人物が待っていた。
マリンの兄で現当主のライザル伯爵、その妻イザベル夫人、そしてマリンの妹でアジェルダ侯爵夫人のシーラ。
サイモンが一歩前に出る。
「お久しぶりです、ライザル様、イザベル様、シーラ様。……今日は娘のマイラを連れて、義母上のお見舞いに参りました。――マイラ、ご挨拶を」
マイラは深く一礼し、静かに口を開いた。
「お初にお目にかかります。マリンお母様の娘、マイラと申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします」
その瞬間、三人の視線が一斉にマイラに注がれる。
表情には驚きが色濃く浮かんでいた。
顔立ちや雰囲気だけでなく、仕草や視線の動きまでマリンにそっくりだったからだ。
手紙で伝えられていた容姿の情報と目の前の姿が重なり、まるで本物の娘が現れたかのような錯覚を覚える。
「……本当に、マリンの娘ではないのか?」
ライザルが思わず口にした。
マイラは微笑を浮かべ、ゆっくりと首を振る。
「残念ながら、お母様とお父様とは血の繋がりはございません。ですが……お母様のことは、第二の母として深く慕っておりました。そのせいか、似てしまったのかもしれません」
ライザルは短く息を吐き、口元にわずかな笑みを浮かべた。
「……そうか。君なら母もきっと喜ぶだろう。――さあ、会いに行こう」
「はい」
マイラは胸の奥でそっと息を整え、義理の祖母となる人の待つ部屋へと歩みを進めた。
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