波乱万丈って言葉、私のためにある?

宵森みなと

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第14話

夜会の後、予想通りというべきか、サイモンのもとにいくつもの縁談が舞い込むようになった。サイモンは「自由に恋愛して構わない」と言ってくれたが、数が増えすぎれば断るだけでも骨が折れる。そこでマイラは、形だけでもお見合いをしておけば、しばらくは縁談ラッシュも落ち着くだろうと考えた。

まず、サイモンが「婿入り可能」で「人柄も信頼できそう」と判断した五件を選び、その候補についてマイラが部下に調査を依頼。結果、二件は不適格と判断し、三件に絞り込まれた。さらに「影の一座」に依頼して、子どもや老人への接し方も含めた追加調査を行ったところ、残ったのは二件。最終的に、その二件でお見合いを進めてもらうことになった。

この経緯も含め、エレンス王国のシーラとイザベルに「これも恋愛相談に入るのでしょうか」と軽い冗談交じりの手紙を送った。

そして迎えた一件目のお見合い当日。会場は王都のレストラン、その一室を貸し切って行われた。相手はテレンス子爵家三男、ジークエル。第三騎士団に所属し、王都内の巡回や犯罪の未然防止を任務としているという。年齢は二十五歳。十歳年上だが、マイラにとって許容範囲内だった。

レストランに到着し、サイモンとともに部屋へ入ると、そこに立っていたのは大柄で筋骨たくましい黒髪の男性。鋭い青い瞳と無骨な表情が印象的で、初対面の人なら少し身構えてしまうような風貌だった。その隣には、同じく大柄で厳つい顔立ちの男性――テレンス子爵本人が座っている。親子そろって似た雰囲気だ。

サイモンは二人を見るなり、苦笑しながら声をかけた。
「ガニエル、久しぶりだな。ジークエル君も久しぶり。そんなに緊張しなくてもいいだろう」

マイラは父の袖を軽く引っ張り、小声で催促する。
「お父様、わたくしをご紹介いただけます?」
「ああ、すまない。こちらがテレンス子爵家当主のガニエルと、その三男のジークエル君。そしてこちらが私の娘、マイラだ」

マイラは椅子から立ち上がり、丁寧に一礼する。
「お初にお目にかかります。デュパール子爵家の娘マイラと申します。本日はよろしくお願いいたします」

咳払いをしたガニエルが口を開いた。
「すまないな、久しぶりのお見合いで息子共々緊張してしまって……テレンス子爵家のガニエルだ」
続いてジークエルが、真っ直ぐな視線で言った。
「初めまして、テレンス子爵家三男のジークエルだ。夜会で見かけて一目惚れした。結婚してくれ」

次の瞬間、ガニエルが容赦なく息子の頭をはたく。
「早いんだよ!まだ見合いの席だ!」
「何すんだ、おやじ!」
「何すんだじゃない!」

目の前で繰り広げられる親子のやり取りに、マイラは思わず吹き出した。
「ごめんなさい……あまりにも可笑しくて」

サイモンは微笑みながら言った。
「普段からこんな感じなんだ。マリンが生きていた頃も、ジークエル君がまだ小さい頃に母を亡くしてね、母代わりとして何度か訪ねたときもこうやって笑わせてくれたよ。懐かしいな」
マイラは笑顔を残しながら、「では、私とお母様は笑いのツボが同じのようですね」と返した。

するとジークエルは立ち上がり、マイラのそばまで歩み寄る。
「……また惚れ直した。結婚を前提に、俺とのことを考えてくれ」
そう言ってマイラの手を取り、甲にそっと口づけた。

マイラは一瞬目を見開き、困ったように微笑む。
「お返事は父と相談してからでもよろしいでしょうか? それより今日は、もう少しジークエル様のことをお聞かせいただけます?」
「もちろんだ! 何でも聞いてくれ」

それからの時間、ジークエルは実直な声で自分の日常を語った。
朝は騎士団詰所で訓練を行い、その後は巡回に出る。昼間は市井の商人や子どもたちに挨拶を返されることが多く、「あの見た目で意外と優しい」と言われるのが密かな誇りらしい。

兄弟の話になると、長兄は領地経営を学び、次兄は外交官として国外を飛び回っているらしい。
「兄貴たちは頭がいいが、俺は体を動かす方が性に合ってる。父も『お前は武器を持った方が輝く』って言うからな」
そう笑う姿に、マイラも自然と頬がゆるむ。

仕事の話では、最近王都で発生していた窃盗団を未然に防いだことを誇らしげに話した。
「商人の娘がさらわれそうになった時は、本気で怒鳴ってしまってな……泣かせたのは俺じゃないぞ?」
その場面を想像し、マイラはまたクスクスと笑った。

あっという間に時間は過ぎ、サイモンが「こちらからまた連絡する」と告げて席を立つ。

別れたあと、ガニエルとジークエルは歩きながら話していた。
「……マイラ嬢は見た目のことを何も言わなかったな」
「ああ。普通なら俺の顔を見ただけで怯えるか、距離を取る。それなのに、普通に話してくれた上に笑ってくれた。やっぱり運命だ」
「何が運命だ。出会ってすぐ求婚する馬鹿が息子だなんて、恥ずかしいにも程がある」
「おやじ、何言ってんだ! 早くしないと取られるだろ!」

そんなやり取りが、夕暮れの王都に小さく響いていた。

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